イギリスの歴史家ウエッジウッド女史の「最後の仮面劇」というエッセイを読みました。
16世紀から17世紀にかけて、イギリスの王室や貴族の間で仮面劇が流行ったそうです。
イギリス国王チャールズ1世にとっての最後の仮面劇は、1640年1月21日火曜日の午後のことであった、ということがわかってるだけでもすごいと思いました。西洋の方がいろんな文書が残ってるように思うんですが、火事で燃えないからか文書を大事にするからか?
なぜ最後の仮面劇になったかと言うと、このあと清教徒革命が起きてチャールズ1世は首をちょん切られるからです。
チャールズ1世にとって最後の仮面劇といっても、熱心なのは王妃ヘンリエッタ・マリアさんのようです。
歌あり踊りありのお芝居で、ウエッジウッドさんによれば「脚本も一応あった」という程度のようです。
「一応あった」と言っても書いたのは当時の一流作家で作曲も当時の一流作曲家です。
一流作家が書こうが一流作曲家が作曲しようが、演じるのが王妃や貴族の奥様たちとそれに付き合わされる夫たちですから中身はちゃちなもので、中身がちゃちとなると舞台装置と衣装がとんでもなく豪華なものにならざるを得ない。
舞台装置と衣装を担当したのはその世界で数十年第一人者として活躍したイニゴ・ジョーンズという人で、この人は「芝居で一番大事なのは脚本じゃなくて舞台装置だ」と主張して作家たちとけんかになったそうです。
さて、1640年と言うと清教徒革命前夜、チャールズ1世の王座は風前の灯火、遠くはスコットランド軍足元では議会と前門の虎後門の狼、お先真っ暗八方ふさがりと言う時期に、仮面劇のリハーサルに付き合うチャールズ1世の気分はどんなものだったんでしょうか。
リハーサルを見たある貴族が、「今年の仮面劇の出演女性たちは今までにないブスぞろい」と書いてるんですが、ウエッジウッドさんによれば、出演女性たちの肖像画を信じれば美人ぞろいのはずとのことです。
本番が済んだ後、ある貴族が書いた手紙が残ってます。
「今年はうまく逃げることができて見ずに済みました」
まあ、そんなものだったようです。