座って本を読んでいると、前に男が二人立った。
「ここんとこ、たてつづけに珍しいやつに会うてなあ」
「ほんまかいな」
一瞬、若手の漫才師が、車内で練習を始めたのかと思った。
見ると、30代前半と思える、スーツ姿の若者である。
漫才師にしては、地味だ。
「娘の幼稚園の父親参観で、後ろからつつくやつ、おるねん。見たら、山田や」
「山田?大学の?」
「高校の」
「あ〜、伊藤やら吉村やらのグループの」
「そうそう。びっくりしたわ。卒業以来や」
「どないしとんの?」
「いや、べつに、話すこともないし」
「グループ、ちごたもんな」
「そのあと、梅田で大村に会うたわ」
「大村?あ〜あ〜、高校のテニス部の」
「そうそう」
「色の黒い」
「うん、今も黒いわ。『ぼくのこと、おぼえてくれてます?ぼく、目立たんかったから』やて」
「そうかな。とくに目立たんということもなかったやろ」
「先週、子供つれて公園にいてたら、茶髪の男がふらふら近寄ってきて」
「やばいがな」
「そうやん。ふらふら歩いて、やばいやっちゃなあと思たら、長田や」
「え〜!長田!あいつ、あと継いだんやろ」
「店、閉めたんやて」
「ふ〜ん、今、なにしとんの?」
「この一、二年、なんにもしてないらしいわ」
「たいへんやなあ」
ちょっと古いタイプの漫才だが、息もぴったりで、話術もなかなかのものであった。
有名進学校の制服の、中学生男子が二人、車内でじゃんけんを始めた。
二人とも、顔は完全に小学生だ。
勝ったほうが、しっぺするという、古いタイプのじゃんけんゲーム。
そのうち、負けたほうが、おどけたかっこうをする罰ゲームになった。
がにまたでうろついたり、よくそんなヘンなかっこうができるものだと感心する。
「傍若無人」ではあるが、顔があまりに幼いので、周囲の人も、「しゃーないなあ」と苦笑している。
白髪の老婦人が乗ってきたので、席をゆずった。
上品そうな人で、「ありがとうございます」と一礼して腰掛けた。
駅に到着。
降りようと、ドアの前に立っていたら、後ろから腰のあたりをがんがんつっつく。
がんがんがん!
誰じゃ!?
振り向くと、さっきの老婦人がにこやかに、「ありがとうございました」
ごていねいであるが、なぜ私の腰をがんがんつっつくのだ。