天気は、心配したほどでなく、薄日が差してくるような気配であった。
例年より、かなりいい天候で、奈良公園の車もいつもよりだいぶ多い。
会場に着くと、すでに予選の真っ最中だ。
例年より、飛距離が出ているなと感じた。
観光振興会の人に聞いたら、せんべいがいつもと違うのだ。
これまで、鹿せんべい飛ばし用の特大せんべいは、手焼きで一枚ずつ作っていた。
千数百枚を、一人で、二ヵ月半かかって焼いていたそうだ。
今年から機械焼きになって、せんべいの仕上がりが非常に固くなって、飛びやすくなったのだ。
優勝記録も、これまでの距離を大幅に更新した。
会場に、奈良地方検察庁の、裁判員制度PRキャラクターの「なっち」が来ていた。
かわいい鹿の着ぐるみだ。
検察庁の人達に囲まれて、半日立ちっぱなしだった。
拷問ですよ。
中に入ってるのは、検察庁の人ではなくて、書類送検されたような人が、強制的にやらされてるのじゃないかと思った。
今年のライブは、おなじみの「中年による中年のための歌謡グループ:ファイブローズ」の皆さんは不参加だった。
ファイブが、四人になり、三人になり、去年は遂に二人だったので、心配していたが、どうされたんでしょうか。
尺八の、松本太郎さんが初参加であった。
出番前話をしたが、風貌からも、話の内容からも、実にまじめな、「若き求道者」という雰囲気が漂っていた。
こういう客の前ではどうかなと、心配したのであったが、トップバッターとして、じっくり聞かせました。
しっかりした技術と、真摯な態度が伝わるんですね。
私のステージがすんで、控えのテントに戻ったら、この人が、真剣な表情で私の目を見つめて、話しかけてきたので、何を言われるかと焦った。
「よかったです。この三年ほど見たライブの中で一番よかったです」
そ、そうですか。
ひょっとすると、あまりまじめな人ではないのかもしれない。
普段は、見向きもされない私であるが、この日ばかりは、「若草鹿之助」という名前のせいか、「サングラス+キンキラキン衣装」の効果か、サインを求められ、いっしょに撮影を頼まれて、いい気になる。
「なっち」と、会場の人気を競った。
ただ、いつものことながら、小さい子にサービスのつもりで笑顔を振りまいて近づくと、泣き出すのが残念であった。
「なっち」の勝ちである。