私たち芸能界に生きる者にとって、「トリを取る」というのは重みがある。
「ビンテージグッズさん、トリでお願いします」といわれて、ふたを開けてみたら、トリではなかった、というのは大問題です。
紅白歌合戦で、北島三郎や和田アキ子が、トリでお願いします、といわれて本番でちがっていたらどうなる。
「サブちゃん、激怒!」「アッコ、マジギレ!」というところでしょう。
私たちは、サブちゃんやアッコじゃないので、おとなしく演奏しましたが。
会場には、いつものように、Y森さんの奥さん、Iさんの奥さんが来てた。
ウチの奥さんは来ません。
これは、ウチの奥さんが冷たいとか、私のステージを見たくないとかいうのではなく、ウチの奥さんは、私を心から信頼してるのにたいし、お二人の奥さんは、夫が心配でたまらない、いつも周囲に迷惑をかけてるので、こういう機会にお礼とお詫びをしておこう、ということである。
と思います。
お二人の奥さんは、会場で、ヤマハの先生はじめ顔を合わせる人すべてに、お礼とお詫びをしまくってた。
もちろん、私が一番激しく御礼とお詫びをされ、今後ともウチの主人を見捨てることなくよろしくお願いしますと頼まれたので、快く引き受けて、私がついているからだいじょうぶですよ、大船に乗ったつもりでいてくださいと答えて、大変に喜ばれた。
さて、演奏の方ですが、「アイキャンウエイトフォーエバー」が一番無難だったと思う。
スローな曲なのがよろしい。
スローな曲でも、じっくり聞かせるというのはダメですが、これはスローでやかましいので、私にぴったりでした。
ボーカルの、高校一年生の男の子が実にいい声だった。
彼の後ろでギターを弾きながら、私は、この子が生まれる前からヤマハでギターを習ってるのだと思うと、感慨無量であった。
終ってから、彼と色々話したが、その話はしなかった。
習い始めて五年目のとき、やはり高校一年生の男の子と話していて、「ギター、何年習ってるんですか?」と聞かれて、「五年」と答えたら、「えーっ!ご、五年!」と驚かれたことがあるのだ。
なぜそんなに驚くのかと思ったが、高一にとって五年前は小学生。
はるか昔からエンエンとギターを習ってるおじさんという感じがしたんでしょうね。
生まれる前から習ってるなんていったら、目を回すかもしれないので、やめときました。