家内の知り合いのMさんの肖像画ができあがったので、きのういつもの店に額縁を買いに行った。
駅前にある店だが、この店のならびにもう一軒額縁屋がある。
十メートルも離れていない。
芸術の都パリならいざ知らず、奈良である。
仏具屋が二軒ならんでるというならわかるが、額縁屋が二軒ならんでるのは不思議である。
いつも利用するA店は、活気がある。
利用しない方のB店は、活気がない、というか、ほとんど死んでる。
A店は、奥に細長い作りで、両端と中央に額縁や画材がびっしり積み上げられていて、道路にまであふれ出している。
店の奥に行くのに、横になってカニ歩きをしなければならない。
B店は、間口が広く、いつもガラス戸がしまっていて、ハゲチョロの看板がなければ額縁屋とはわからない。
一見「終ってる」という感じの店である。
以前、A店が休みで、一度だけB店で買い物をしたことがある。
ガラガラと戸をあけて店に入ると、三十年前の売れ残りがちらほらという感じで、誰も出てこないので、しかたなく声をかけたら、出てきたのが、これまた終末感あふれるおじさんだった。
A店は、私くらいの年の夫婦と、若者が一人。
いい感じのトリオである。
ほんわかトリオというか、おとぼけトリオというか、まあ、愛想ないです。
愛想悪いというのじゃないが、愛想なしだ。
油絵を再開して、この三年ほど、キャンバス、額縁、絵の具、それに最近ではイーゼルと、かなりよく利用している。
配達も、何度もしてもらってる。
しかし、いまだに「おなじみさん」扱いはない。
いつ行っても、「何しに来た?」という顔で無言で私を見る。
店の奥から客に気づいても、誰も出てこない。
それでいて、三人とも、妙に「安売り精神」に満ちあふれている。
客はとにかく安い物を求めているのだ!
安い方を進めておけば間違いないのだ!
これです。
私は、額縁でなんとか絵を引き立てようという魂胆であるから、少々高くても、そういう額がほしい。
ところが、三人ともそんな気持ちには全然理解がない。
「こっちの方が安いでっせ」
これが殺し文句と思っている。
昨日も誰も出てこないので、奥まで行っておかみさんを呼んだ。
「ご自宅用でっか?」
「いや、贈り物です」
「あ、贈り物でっか?それやったら、安いほうがよろし〜わな〜?」