駅で。
母親と息子の会話を盗み聞きしたというわけではなく、まあ、聞こえてきたんです。
息子は二十歳くらいだと思いますが、頼りない感じでした。
だって、お母さんの声しか聞こえない。
息子が一人暮らしを始めるところのようですな。
お母さんの声は、はっきり聞こえるけど、息子はぼそぼそと何を言ってるかわからない。
お母さんは、しきりにインターネットの心配をしている。
お母さんは、インターネットと縁がなさそうな顔だ。
「インターネットて、なにするん?」
「ぼそぼそ」
「オークション?なにそれ?」
「ぼそぼそ」
「電気代、かかるん?」
「ぼそぼそ」
「電気代、かかれへんの?」
「ぼそぼそ」
「なんで電気代かかれへんの?」
「ぼそぼそ」
「電気代かかれへんて、不思議やなあ」
「ぼそぼそ」
「コンセントさせへんの?」
「ぼそぼそ」
「さすの?コンセントさしてあるんやったら、電気代かかるんやで」
「ぼそぼそ」
「わかってるか?コンセントさしてあったら、電気代かかるんやで」
「ぼそぼそ」
「あんた、やめてや。ウチといっしょはあかんよ。トイレの電気、つけっぱなしはあかんよ」
インターネットの電気代と、トイレの電気と、なんだかよくわからんが、お母さんが息子の一人暮らしを心配してることはよくわかった。
電車に乗る。
西大寺車庫の横を通過。
広大な車庫である。
線路脇で、保線作業の係員達が、十人ほど円陣を組んでいた。
黄色いヘルメット、紺の作業服の男達である。
これから始まる作業の打ち合わせかな。
電車は、円陣を組む男達の横をゆっくりと通過。
おお!
なんと、ヘルメット姿の十人ほどの男達は、ニコニコとじゃんけんしてるではないか。
楽しそうであった。
いや、とっても大変な作業の割り振りだったのかもしれんな。
今日の四時半ごろ、近鉄西大寺車庫で、円陣を組んでじゃんけんしてた保線作業員の皆様に聞きたい。
何のじゃんけんだったんですか。