今日は病院に行きました。
県立の大きな施設です。
待合所ですわってたら、隣で80代と思える男性二人、にぎやかにおしゃべりしてました。
この二人は、県立高校の同窓生で、家族ぐるみの親しい付き合いだったのが、久しぶりにここで出会って大いに盛り上がってるのだということが、じ〜っと盗み聞きしてるうちに分かりました。
待ち時間が長かったのでじっくり盗み聞きできたんです。
二人ともよくしゃべる。
どちらもお元気で、同窓会や町内会など、いろんな世話役を引き受けてる。
いっしょうけんめいやってるけど、周囲は頭の悪い無責任で依頼心の強いボンクラばかりで、感謝されることはないどころか、文句のいわれっぱなしである。
それでも世話を焼いてしまうのはお互い人がいいにも程がある損な性分だと、笑ってすませるおおらかなお二人であるが、周囲の人達の話も聞いてみたいと思いました。
退職後、家庭菜園に手を出す男が多いのも困ったもんだということでも意見は一致してました。
農家の出身でないとロクなものはできない。
そういう出来損ないの野菜を持ってこられても迷惑である。
一応もらっておくけども、ということでも一致してました。
病院の話になった。
二人とも奈良の病院について非常にくわしい。
どこは京大系だとか、あの新設病院は設備がいいので今後伸びるだろうとか、どこの病院の何科は何先生で持ってたけど、その先生は超多忙で、過労で亡くなった、人の命を助けて自分の命を助けられないとはどういうことかとか、まあいろいろ知ってるので感心しました。
そのうち、ひとりの男性が奥さんのことをぼやき始めた。
とにかく、人の話を聞かない奥さんだそうです。
筋道立てて話してやっても理解できない。
で、紙に書いてやることにした。
紙に書いたものを何度も読めば理解できるはずだ。
ところがそれでもわからないとギャーギャー言う。
奥さんが何を言っているのかもわからない。
何を言いたいのかわからない。
たとえば、病院に行って先生になんと言われたのか聞いても、さっぱりわからない。
支離滅裂である。
だから、紙に書けと言ってやる。
私は紙に書いている、お前も紙に書け。
文章にすればわかるはずだ。
すると突然キレて、「死んだる!死んだらええのやろ!」と叫びだす。
それを聞いていたもうひとりの男性が、取りなすようにニコニコと、「心配ない。そんなこと言う人が死んだためしない」
「心配ないと思うよ。思うけどね、なんか言うたら、『死んだる!死んだらええのやろ!』やからなあ」
「いや、心配ない。死んだりせえへん」
「まあ、死なんと思うけど、何かにつけて、『死んだる!死んだらええのやろ!』やからなあ。気の強い女やから、死なんと思うけど」
大変だなあと思いながら必死に盗み聞きしてたら、80代と思える女性がやってきて、ぼやいてた男性に、「名前呼ばれた?」と聞いた。
「まだや」
おお!
この人が、「死んだる!死んだらええのやろ!」の人か。
なるほど、気の強そうな顔である。
隣の男性が、ニコニコと、「奥さん、しっかりした付き添いさんが(と、ぼやいてた男性を指しながら)付いててよろしいなあ」と腫れ物に触るように言う。
さっきまでぼやいてたご主人は、憮然とした表情で、「ぼくも結構役に立ってると思うんやけど」
どうやら、今日は奥さんの診察にご主人がついてきたようである。
奥さんは笑って、両手の人差し指を空中でチョイチョイ当てて、「チャンバラ!チャンバラばっかり」と言いました。
そうか。
チャンバラの最中に、「死んだる!死んだらええのやろ!」になるわけですね。
長い待ち時間、ぜんぜん退屈しませんでした。