きのう、大和西大寺駅で電車を待ってました。
ぼ〜っと立ってたら、派手な服装の男性が近づいてきた。
キンキラキンじゃないんですが、実に鮮やかなブルーのブレザーに同じ色のパンツ。
80代かな。
どれくらい鮮やかなブルーかというと、一瞬、この人、吉本の漫才さんかなと思うくらい鮮やかなブルー。
いや、顔の日焼け具合からすると、芸人さんじゃなくて、日本ゲートボール協会奈良支部の役員さんかな。
見て見ぬふりをしながら観察してたんですが、どうも挙動がヘン。
目が泳いでるというか、なんかヘン。
その人が私の後ろに立った。
後ろから突き飛ばされるんじゃないかと警戒しました。
すると、その人は駅員を見つけて、ふらふらと近づいて行った。
「郡山に行きたいんですが、橿原神宮前行きに乗ればいいと言われたんですが・・・」
「次に来る電車に乗ってください」
「橿原神宮前行きに乗れと言われたんですが」
「次に来るのが、橿原神宮前行きです」
「ははあ、で、橿原神宮前で乗り換えたらいいんですか」
「いや、橿原神宮前は終点です。郡山はずっと手前です」
「じゃあ、乗り換えなくていいんですか」
「乗り換えなくていいです。郡山は、ここから4番目の駅です」
「ありがとう。私は月ヶ瀬のもんで、いなかもんで、電車に乗るのは何十年ぶりなんです。いや、ありがとう」
で、次に来た電車に私といっしょに乗り込みました。
空いてました。
座席には、私とその男性と、小学生男子の二人連れだけでした。
大きい方は5年生か6年生、小さい方は1年生かな。
男性は、小学高学年と思える男の子に声をかけた。
「キミたち、おとうさんかあさんはいっしょじゃないの?」
「ハイ」
「兄弟か?」
「ハイ」
「そうか。兄弟二人で電車の乗って行くのか。えらいなあ。えらいえらい。君は1年生か?2年生か?」
どう見ても小学高学年ですが。
男の子は、なんとも言えない笑いを浮かべました。
「・・・ぼくは、5年生です。あ、今度6年生になります」
「ほう!6年生!体は小さい方やね」
「・・・」
背は高い方だと思います。
「ウチはどこ?」
「法蓮町です。知ってると思いますけど、聖武天皇陵のある町です」
「いや、知らんなあ。えらいなあ。おじさんはな、月ヶ瀬の人間や。いなかでな、電車に乗るのは何十年ぶりや」
ひとしきり子どもたちと話した男性は、文庫本を読んでいるふりをしながら盗み聞きしていた私に声をかけた。
「いやあ、青年みたいですなあ。こうして、電車の中でも、寸暇を惜しんで本を読んで勉強しておられる!」
「郡山で、何かあるんですか?」
「私は、平成12年に、高齢者大学を卒業しまして、今日はその集まりがあるんです。私は、月ヶ瀬の人間で、電車に乗るのは何十年ぶりです。今日も車で来ようと思ったんです。で、前もって調べておこうと、二週間ほど前に、車で郡山に行きまして、警察で道を聞いたんです。若い婦警さんが親切に教えてくれました。郡山というところは一方通行が多いんですなあ。ここも一方通行、ここも一方通行。親切に地図を描いてくれてたら、男性の警官が来て、『おやじさん、せっかくやけど、車はあかん。お城祭りで交通規制があるから、電車で来なさい』といわれましてな。私は、月ヶ瀬の人間で、電車は何十年ぶりで・・・」
「あ、あの、郡山ですよ!」
「お!」
おじさんはあわてて電車を降りました。