イギリスの障害競馬騎手A・P・マッコイの自伝を読んでます。
イギリス国民にとって競馬の最大のレースは「グランド・ナショナル障害」だそうです。
競馬の騎手だとわかると、競馬を知らない人でも「グランド・ナショナルで勝ったことはあるんですか」と聞いてくる。
レース当日はイギリス中で「グランド・ナショナル」の話になる。
競馬に縁のないおばあちゃんも財布から5ポンド出して「馬券買ってきて」と頼む。
40頭ほどの馬が出走して、距離は約7000メートル、高さ1メートル50ほどの障害を30飛び越える。
完走することさえむずかしい最も過酷なレースと言われてる。
マッコイ騎手は、20年連続年間最多勝というイギリス競馬史上に残るすばらしい記録を持つ大騎手ですが、グランドナショナルには20回出場して1回勝っただけです。
1995年に初出場した時は転倒、2回目が落馬、3回目4回目が途中棄権、そして落馬、転倒ときて7回目でなんとか完走して3位に入ってます。
15回目でやっと優勝してるんですが、20回出場して完走は7回と言うんですからとんでもないレースです。
なぜこれほど転倒や落馬が多いかと言うと、出走頭数が多いので1頭が転倒や落馬すると後続馬が次々に転倒したり落馬したりする。
そして、落馬した馬が走り続けることがある。騎手が乗らずに走ってる馬を「放馬」と言うそうですがこれが危ない。
騎手がコントロールしてない馬が勝手に走って勝手に障害を飛び続けるんです。
転倒や落馬に巻き込まれないよう、放馬に絡まれないようにして走るのは大変だと思います。
マッコイ騎手は、「グランド・ナショナルで勝つ秘訣は、障害を確実に飛ぶ馬のうしろにぴったりくっついて走ることだ」と言ってます。
大騎手マッコイも一時は「おれはグランド・ナショナルには勝てないかも」と悩んだこともあったそうです。
2010年に、15年連続最多勝と念願のグランド・ナショナル初勝利によって、BBCが選ぶ「スポーツ・パーソナリティ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。
イギリス・スポーツ界から毎年ただ一人選ばれる名誉の称号で、競馬の騎手としては初めてです。
そして、勲章ももらうことになった。
マッコイ騎手は、「勲章というのは、公僕として世のため人のために働いた人がもらうもので、自分のように好きなことを商売にしてるだけの男がもらうのは気がひける」と殊勝なことを言ってます。
殊勝なことを言ったかと思うと続いてとんでもないことも言ってます。
「何月何日に女王から授与しますからバッキンガム宮殿においでください」という案内状が来たんですが「レースのある日に行けるわけない」と言うんです。
年間最多勝を目指して一勝一勝命がけで勝ち取ってる自分にとってレースを休むことなどありえない!
で、行かないんです。
勲章なんかもらいに行ってる暇がない。
で、どんどん日にちがたつんです。
マッコイ騎手も、これはちょっとまずいかなと思った。
いくらなんでもほったらかしにしすぎたなと思ってたら、また手紙が届いた。
「ご多忙中恐れ入りますが、アスコット競馬の開催日に、競馬場の近くのウインザー城まで取りに来てください。」
で、行くんです。
熱烈な競馬ファンである女王はお待ちかねであった。
勲章を渡しながら「やっときてくれましたね」と言われて冷や汗が出たと言うんですが、イギリスってこんなのありなんですか。
勲章を授与しますからバッキンガム宮殿にお越しくださいと言われてすっぽかす?
すっぽかされた女王が相手の都合に合わせて日にちと場所を変えて授与する?
これを「授与」というか疑問ですが、さすが大英帝国奥が深いです。
最後にマッコイ騎手は、エリザベス女王の次はチャールズさんかウイリアムズさんかハリーさんか知らんけど、跡を継ぐ人は女王を見習って競馬を大事にしてほしいと願ってます。
競馬は必ず役に立つと断言してます。