NHKテレビで放映した1956年アメリカ映画『愛情物語』を録画したのはなつかしかったからです。
高校生のころラジオの「電話リクエスト」というのをよく聞きました。
「新潟県西蒲原郡片桐直之さんのリクエストで映画『愛情物語』のテーマ『トウラブアゲイン』をカーメン・キャバレロのピアノでお送りします」
好きでもないのに何度も耳にした曲です。
で、どんな映画か見ようと思ったんです。
どちらも名前だけ知ってる。
タイロン・パワーは「ハリウッドの帝王」と言われてたと思います。
キム・ノヴァクは子供心に「かわった名前やなあ」と思いました。
映画が始まるとトランクを持ったおっさんが軽やかに登場。
「ニューヨークのフーテンの寅さん」みたいな感じです。
まさかこのおっさんがタイロン・パワーじゃあるまいなあと思ってたらタイロン・パワーでした。
驚くのはまだ早かった。
なんとこのおっさんが大学薬学部を出たばかりの新社会人だというんです。
このときタイロン・パワー42歳。
昭和20年代、NHKラジオで『アチャコ青春手帖』という番組があって花菱アチャコが大学生の役だった。
それが映画化されたときの批評「ラジオでは気にならないが映画になるとアチャコの大学生はいくらなんでもムリがある」というのを思い出しました。
さて、タイロン・パワーがなぜニューヨークにやってきたか。
故郷で趣味のピアノを弾いてた時ニューヨークの人気楽団のリーダーが聞いて、「ニューヨークに来たら寄りたまえ」と声をかけてくれた。
それをピアニストとして雇ってやるということだと誤解したんです。
意気揚々と現れたタイロン・パワーを見てリーダーはびっくり、「故郷に帰って薬剤師になれ」と忠告します。
はは~ん、素人芸のピアノで通用すると思って張り切ってたけどプロとの差にがくぜんとして、修行を重ねるタイロン・パワーを支えるキム・ノヴァクの愛情物語なんだと思いました。
ちがいました。
すごすごと故郷に帰るはずのところがキム・ノヴァクのおかげでピアノを弾かせてもらってあっけなく人気ピアニストになるんです。
キム・ノヴァクが登場した時、きつそうな女やなあと思いました。
このおっさんとこのきつそうな女で「愛情物語」なんかできるのであろうか。
心配無用、二人はすぐいい仲になってニューヨークを散歩する。
エンエンと散歩する。
はは~ん、この映画はタイロン・パワーとキム・ノヴァクを見せるための映画なんだと思いました。
ちがいました。
キム・ノヴァクはすぐ死ぬんです。
出産のときに死ぬ。
男の子が生まれたと聞いてタイロン・パワーが喜んで産院に駆けつけると医者が深刻な顔で「もうダメだ」と言うのでタイロン・パワーはびっくりするんですが見ているこっちもびっくりですよ。
なんで突然「もうダメ」なのかわけわからん。
「キム・ノヴァクにはここで死んでもらう!」という監督の強い意志を感じました。
「もうダメ」と宣告されたのに医者もいなければ看護婦もいない。
「二人の熱演をお楽しみください」という病院側の配慮が感じられます。
配慮はいいけど、何の手当も受けられないままキム・ノヴァクが死ぬのはどうかと思う。
訴えられても仕方ないと思います。
それにしてもこんなに早く主演女優を死なせていいのか。
あとで幽霊で出てくるのかな。
最愛の妻に先立たれたタイロン・パワーは生まれた息子を恨んで妻の叔父夫婦に預けたまますべてを忘れようと海軍に志願したと思ったら駆逐艦に乗り込んで「主砲発射!」とか叫んでかっこよく敵潜水艦を撃沈する。
戦争がすんで帰国すると10歳になった息子に美人の家庭教師がついてるのでタイロン・パワーは驚くけど見てる私は驚かない。
はは~ん、こっちと愛情物語か。
驚くのは日本人形の一件です。
タイロン・パワーが美人家庭教師に「ボクが送った日本人形は気に入ってくれたか」と聞くんです。
息子に日本刀を送ったというのはわかりますが、存在も知らない家庭教師に日本人形を送ったというのが不思議と思いました。
この先見続けるか迷うところである。