「お笑い視力検査」「お笑い高齢者講習」がすむといよいよ実地講習です。
「は~い、ここからコースまで車で移動します。私の車と社長の車に分乗してもらいます」
社長というのはさっき入ってきてビデオを操作したおっちゃんでした。
私はパワフル女性の車で、山田さんともう一人鈴木さんという私と同年配の女性がいっしょです。
自動車教習所が住宅地にあるのはおかしいと思ってましたが事務所とコースが別だったんですね。
10分ほど走ってコースにつきました。
はじめにパワフル女性が順路を運転。
「ハイ、そしたら山田さんから行こか」
「なんや、またわしかいな」
「目ぇつけられたら終わりって言うてるやろ。ハイ、ど~ぞ!」
山田さんが車を動かすとすぐに女性が「は~い、減点~!」と言った。
「なんで?」
「なんでって、シートベルトしてないや~ん!山田さん、ウケ狙いやめてね。もう十分笑わせてもろたから」
「いや、そういうつもりやないんやけど」
「ほなどういうつもりやのん?シートベルトもせんといきなり走り出すって!」
「うにゃ~~~」
「うにゃ~やないよ!なんぼでもつっこむからね!」
山田さんいろいろあって次は私の番です。
右折の時小回りだと言われました。
大回りしてるつもりだったので注意してもらってよかったです。
最後に鈴木さん。
走り出してしばらくしてパワフル女性が声をあげた。
「ちょっとちょっと!」
「はい?」
「何で止まれへんの?ここ一旦停止よ!標識見えん?」
「あ・・・そ~か」
「バックしてどうするん?バックしてもダメ!やりなおし!まっすぐ行って。ハイそこ左折。次も左折。はい直進・・・ちょっとちょっと、ここ、止まらなあかんやん!一旦停止やん!標識あるやん!・・・いや、バックしてもあかんって!止まらなあかんの!やりなおし!なんべんでもやらせるからね!」
鈴木さん、三回目でクリヤー。
「鈴木さん、次、車庫入れね!」
「車庫入れ苦手なんです~。後ろ見てもよろしい?」
「後ろでも上でも好きなとこ見たらええやん」
そろそろとバックしたと思ったら鈴木さんが「あ~、ハンドルちょっと遅かったかな。」と言って車を止めた。
「やりなおしてもよろしい?」
「やりなおさんと当たるやろ!」
三回目で入りました。
「あ~しんど」と疲れ果てた様子の鈴木さんにパワフル女性が声をかけた。
「おつかれさま!」
「降りてよろしい?」
「何で降りるの?こんなとこで降りてどうするの?まだ終わってへんやん!」
「お笑い実地講習」も無事(?)すんでパワフル女性講師が講評。
「高齢者講習ってね、山田さんや鈴木さんみたいな人が毎回必ずいてはるねん」
そうなんですね。
「みなさんの感想は?」と聞かれたので、「来て良かったです。しゃべくりが無茶苦茶おもしろかったです」と言ったら「いやあ、私なんかまだまだ!ウチの社長最高におもろいよ!」
ふ~ん、あのおっちゃんが・・・。
鈴木さんが、「ウチの主人も去年ここで講習受けたんです」
「え!あ~、去年の12月!あの鈴木さん!おぼえてますよ!」
「今年私が講習なんでどこで受けようかと迷ってたら主人が、あそこにしとけ、おもろいで、っていうんでここにしたんです」
いやあ、ほんとにおすすめですわ。
店構えを見た時、事務所に入った時、その他何度も「だいじょうぶかな」と思いましたが、全然だいじょうぶ!
立派な事務所もいらん。
カッコいい制服もいらん。
コンピュータ予約システムもいらん。
これでいい!
我々は余計なものに目を取られて大事なものを見失っているのではないかと思いつつ教習所を後にしたのであった。