NHK大相撲解説者の舞の海さんの名前が、デビッド・クリスタルの英語論『WORDS WORDS WORDS』に出てくるとは思いませんでした。
クリスタルさんは「英語の多様性」について何度も書いてますがこの本でも取り上げてます。
イギリスにもいろんなお国なまりがある。
たとえば「リバプール弁」。
昔ながらの「リバプール弁」があるだけでもややこしいのに、近代に入って人の動きが激しくなると「ロンドンことば」の影響を受けるようになって、「ロンドンなまりのリバプール弁」が出てきて一段とややこしくなってきた。
最近では移民が増えて「ジャマイカなまり」や「ポーランドなまり」がくっつく。
「ロンドンなまりのリバプール弁のジャマイカ風」というような非常にややこしいことになってるみたい。
イギリス以外でも英語を使う人がふえてる。
たとえばイギリス植民地ナイジェリアが独立する。
言葉をどうしようかということになる。
ナイジェリアには約450の言語がある。
どれを標準語にしてももめるから、英語にしとこうということになって「ナイジェリア英語」ができる。
同じように「ガーナ英語」「シンガポール英語」「南アフリカ英語」ができる。
そういう英語の辞書を作ったら面白いんじゃないかと思って調べたら現地ではすでに立派な「ナイジェリア英語辞書」「ガーナ英語辞書」などができていたのでかっくんとなったそうです。
イギリスの「標準英語」から見たら単語も文法もヘンだけど現地ではそれが「標準ナイジェリア英語」であるのでややこしい。
では「標準イギリス英語」で書いてあったらややこしくないかというとその国の文化を知らないと何が書いてあるかわからないからややこしい。
ここで舞の海さん登場!
異文化理解の難しさの例として『デイリー・ヨミウリ』という英字新聞の記事を引用してある。
「関脇若乃花は対戦相手の前頭6枚目舞の海をほとんど問題にしなかった。若乃花にとって数少ない自分より小さい力士である舞の海は意表を突く技で有名だが、関脇の相撲のうまさでその技を完全に封じられた」
「標準英語」で書いてあるけど、相撲を知らないイギリス人がこれを読んでも何のことかわからない。
相撲を知らないイギリス人のために「注」がついてます。
「rikishi」は「強い男」のことで「プロのスモーレスラー」。
「sekiwake」と「maegashire」は相撲のランキング。
ちょっと気になるのは「前頭」が「maegashire」になってる。
本文でも「注」でも「マエガシレ」。
いや、「マエガシャイアー」かな。
クリスタルさんのまちがいなのか誤植なのか「標準英語」ではこれでいいのか、英語の多様性について学んだ後ではかえってややこしい。
現在も世界のあちこちでややこしい英語がふえている。
その結果英語世界が無茶苦茶ややこしくなるかというと、そのややこしさを通じて相互理解が深まるだろうというのがクリスタルさんの見解のようです。