マッチ擦るつかの間の海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや
寺山修司の有名な歌で、うまい!と思うけど私にとって切実な歌ではありません。
ところがアメリカの政治学者アンドリュー・ベースビッチの『幻想の時代:アメリカは冷戦の勝利をいかに無駄にしたか』を読んでいてこの歌がぱっと頭に浮かびました。
ベースビッチがこの歌を知ったら感激すると思いました。
ベースビッチは1947年生まれ、陸軍士官学校出身、ベトナム戦争に従軍。
その後冷戦の最前線フルダ渓谷で軍務につき、冷戦終結後湾岸戦争で大佐として指揮をとった。
多くを語ってませんがそのころ軍人であることに対する疑問が大きくなり1992年に退役、学問の道に転じたようです。
この本で歴代大統領を批判してますが、大統領のことを何度も「commander in chief」と書いてます。
「陸海空軍最高司令官」ということです。
軍人として絶対忠誠を誓い命を預けてきたんだという意識だと思います。
第2次大戦後、アメリカ合衆国は自由と民主主義を守るための戦いを続けてきた。
そのために命をかけてきた著者は、「自由と民主主義」とはいったい何なのか大統領をはじめ国民のだれも考えていないのではないかと思うようになった。
著者の考えに近い人の言葉を引用してます。
裁判官ルイス・ブランダイス。
「一握りの金持ちのいる国に民主主義はない」
大統領フランクリン・ルーズベルト。
「食べるのに困っている人は自由ではない」
2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントンと民主党候補の座を争ったバーニー・サンダース。
「リンカーンの理想、人民の人民による人民のための政治はいまや終わりをむかえている。そのかわりに登場したのがオリガルヒ政治、億万長者の億万長者による億万長者のための政府だ」
今話題のロシアの新興財閥オリガルヒがロシアだけの問題じゃないと訴えてたんですね。
この本で著者は政治経済文化宗教、あらゆる面でアメリカを批判してる。
元軍人として軍の在り方にも疑問を感じてる。
アメリカは徴兵制ではなくなって志願兵制になっているが「志願制」と言えるのか。
大学卒でない若者が報酬や安定性の面でまともな職を目指すと軍隊くらいしかないではないか。
社会の指導層にいる人やスポーツ芸能の有名人で兵役志願する者はいない。
イギリスを見よ。
王子たちが兵役につき戦地に配属されてるではないか。
本には書いてませんがウイキペディアによると著者の息子も軍人でイラクで戦死してます。
「身捨つるほどの祖国はありや」はベースビッチの歌といってもおかしくないと思いました。