こういう気が滅入るようなときには浮世離れした話がいい。
1928年生まれのイギリス人ジャーナリスト、バーナード・レビンの本は浮世離れした話題ばっかりです。
ユダヤ移民の貧しい家庭に生まれたバーナード少年は中学に入るまでシェイクスピアを知らなかった。
信じられないだろうけど、と断ってます。
おかあさんが時々何か詩みたいなものを暗唱してた。
しょっちゅうなのでおぼえてしまった。
時々おじさんが訪ねてきた。
おじさんはメロドラマ風のおおげさなせりふ回しで詩みたいなものを暗唱した。
しょっちゅうなのでそれもおぼえてしまった。
中学生になってシェイクスピアを習った。
『お気に召すまま』を習った時、おかあさんが暗唱してた文句が出てきたのでびっくりした。
『ジョン王』を習った時、おじさんが暗唱してた文句が出てきたのでびっくりした。
当時イギリスでは徹底的にシェイクスピアを暗唱させたんですね。
おかあさんが知り合いのある女性を訪ねる時必ずバーナードを連れて行った。
そのときおかあさんはバーナードのポケットに石炭を入れた。
なんのことかわからなかった。
その女性の家から戻ると家に入る前におかあさんはまず左を向いてペッと唾を吐き次に右を向いてペッと唾を吐いた。
なんのことかわからなかった。
おとなになってから知ったのは、その女性が「災いの目を持つ女」として恐れられていたということであった。
彼女に見つめられると悪いことが起きるというんです。
石炭と唾ぺっぺは魔除けだったそうです。