浮世離れシリーズ。
貧しいユダヤ人家庭に育ったバーナード少年の思い出話。
食事は魚がほとんどで、鮭は高いからカレイかタラが多かった。
たまにチキン、肉は年一度か二度で、そういう時には決まって家の銀の燭台かおかあさんの指輪が消えることに気づいていた。
消えた銀の燭台とおかあさんの指輪はいつの間にか戻って来た。
パンも高いから「マツァ」というクラッカーみたいなのを食べていた。
おかあさんはよくフライパンにマツァと水と大量の塩と大量のバターを入れて火にかけてぱりぱりしたものを作った。
それがユダヤの貧しい家庭の伝統食「マツァブライ」だった。
バーナードが通っていた小学校では毎朝講堂で朝礼があった。
あるとき先生が生徒に今朝の朝食が何だったか聞いた。
食糧難の時代だったからちゃんと食べているかの調査だったのだろう。
生徒が次々に答えてバーナードの番になった。
「マツァブライです」
「え?もう一度」
「マツァブライです」
「もう一度」
「マツァブライです」
生徒たちがざわつきだした。
先生が前に来て壇に上がるように言った。
壇上でもう一度聞かれてもう一度答えた。
先生たちがひそひそと話し合った。
そして先生はやさしく「今朝何を食べたかもう一度言ってごらん」と言った。
「マツァブライ」
困惑の表情を浮かべた先生はバーナードの肩をたたいて席に戻ってよろしいと言った。
席に戻るとき生徒たちはバーナードが伝染病患者のように身をよけた。
一体どういうことかわからなかった。
我が家のふつうの食べ物を先生や友達が知らないとは想像できなかった。
この話は誰にもしていない。
何がおきたのか全く説明がつかないという恐怖であった。
貧しい食事だったがおかあさんの作るものは何でもおいしかった。
おかあさんのお得意は魚を「マツァブライ」の粉でくるんだ料理でこれが大好きだった。
おかあさんの80歳の誕生日に妹と二人でサプライズを企画した。
子供時代の台所を再現して、フライパン、魚、マツァなども用意してカーテンで隠した。
お母さんに超豪華エプロンをプレゼントしてさっとカーテンを開けた。
「ママ!あの時の料理を作って!」
塩とバターは身体によくないというのはうそだというのがバーナード・レビンの結論です。