明日は七夕だ。
七夕は、大阪では私が子供のころから幼稚園専用の行事だった。
この時期になると、幼稚園児のいる家の玄関に七夕飾りが現れる。
幼稚園の子がいるんだな、という目印以上のものではない。
以後、七夕とは縁が切れる。
大学に入って間もないころ、郭抹若の詩を読んでいて、七夕に再会した。
「見上げてごらん夜空の星を
あの流れ星は牽牛と織女が
ランタンをさげてそぞろ歩いているところなんだよ」
この詩を読んで、私は驚いたのであった。
当時は、後に「文化大革命」と呼ばれる大騒乱が始まろうとしていた時期だ。
有名な文学者で国家副主席でもあった郭抹若が、「自分のこれまでの著作には何の値打ちもない。焼き捨てられるべきだ」と自己批判して世界を驚かせたところだった。
その郭抹若が、若いころこんな可愛い詩を書いていたのか、と思った。
うちの子供たちも、七夕飾りを作ったはずだが、記憶にない。
日本人のほとんどが経験するわりには、意味もなければ楽しくもない行事だと思う。
我が家の近くに警察署がある。
きのう、建物入り口の両側に大きな七夕飾りが立っていた。
場違いのような、ほほえましいような、微妙な感じだ。
短冊には、警察官たちの願い事がいろいろ書いてある。
「奈良の治安が維持できますように」
「交通事故ゼロ!」
文句のつけようのない願いだ。
こういうまともなものばかりではない。
「奈良でマラソンを!白バイで先導したい!」
「身近で凶悪事件が起こりますように。現行犯逮捕したい!」
「剣道大会で優勝できますように」
「守ろう!交通のルール」
願いというより標語だ。
この七夕飾りを見て、署長が怒ったそうだ。
「なんだ、署の入り口にこんなものを!」
「星に願いをかけているのです」
「なに!?星に願いを!ホシは逮捕じゃ!」
「えーかげんにしなさい!」
「ほんとにねッ!」