キリストのはりつけの絵というのは、いろいろありますね。
あれ、きらいです。
見たくない。
名作かなんか知らんが、見たくない。
えげつない姿じゃないですか。
キリストが十字架にかかってる姿の絵を「磔刑図」というのですね。
「たっけいず」
ヘンなことばだと思います。
なじめない。
「たっけい」って・・・?
「はりつけ図」とか「十字架刑図」の方がましだと思いますが、伝統的に「磔刑図」なんですね。
そのえげつない「磔刑図」の中でも、これはえげついない!と思うのが19世紀フランスの画家レオン・ボナの作品です。
なまなましいんです。
バーバラ・ワインバーグの、19世紀フランス美術教育に関する本を読んでたら、このえげつない作品に関するえげつないエピソードが紹介してありました。
レオン・ボナという人は、19世紀後半のフランスを代表する超売れっ子画家の一人で、国立美術学校の教授もしてた大物中の大物です。
注文殺到という、うらやましい人です。
私みたいに、描いた絵の処分に困ることなんかない。
そのボナが、パリの裁判所から注文されて描いたのが、「キリスト磔刑図」です。
国立美術学校の生徒だったアメリカ人ウイアーが、1874年、故郷の父親にあてた手紙で、その絵の制作に関する裏話を報告してるんです。
授業がすんで、ウイアーが解剖室をのぞきに行った。
当時、美術解剖と言って、人体の構造研究のため、美術学校で解剖をしたんですね。
死体に触るのは慣れてた。
解剖室には、ボナともう一人の教授がいた。
警官が、解剖用の死体を届けに来たところだった。
部屋の片隅には、巨大な十字架がおいてあった。
そこへ生徒たちが大勢やって来た。
「磔刑図」の注文を受けたボナ教授が、死体を買って実際に十字架にかけて、筋肉がどうなるのか確かめるらしいといううわさが流れたんです。
ボナは、集まった生徒たちを追い返した。
で、生徒たちは教室に戻って、デッサンの授業を受けた。
すると、解剖室の方から、くぎを打ちつけるような音が聞こえてきた。
授業がすんでから、ウイアーは解剖室に行って、守衛に金を渡して中をのぞかせてもらった。
巨大な十字架に死体が打ち付けてあったそうです。
恐ろしい光景だったが、ウイアーは、これがフランス人画家のリアリズムなのかと思った。
えげつない話ですね。
おえっ!となります。
この作品がなまなましい理由がわかりました。
発表当時から、なまなましすぎるという批判はあったようです。