後藤正治著「スカウト」を読む。
野球のスカウトを扱ったノンフィクションである。
面白いけれど、今はどうでもよろしい。
この中に「怪童尾崎投手」が出てきた。
私くらいの年配の野球ファンなら知っている名前だ。
大阪の浪商を二年で中退して東映フライヤーズに入団。
その年いきなり二十勝をあげて新人王になった選手だ。
何年目かで肩を痛めて、早くに野球の世界を去った。
本の中で、この尾崎投手の名前を見たとたん、私は思い出した。
彼が新人王になった年、私は高校生だった。
父が読んでいた月間の野球雑誌に、各球団の寮を訪問する記事が連載されていた。
その雑誌の記者が、東映の寮を訪れたとき、ちょうど洋服屋が来ていた。
何着かの背広の中から、一着取り上げた尾崎選手が、洋服屋に
「おっちゃん、これなんぼ?」と言ったと書いてあったのを思い出した。
「おっちゃん、これなんぼ?(これ、いくら?)」と書いてあった。
カッコの中まで覚えている。
寮の玄関口で、背広を広げる洋服屋と、立ったまま背広をつかんで値段を聞いている怪童尾崎投手の姿が、目に浮かぶのである。
その記事に写真が出ていたわけではない。(と思う)
いったいこれはなんじゃ。
脳のどこにこの記事が収められていて、脳のどこにこの映像がでっち上げられているのか?
私の脳に聞く気もしない。