昔から名前だけ知っていた本を、図書館で借りた。
昭和39年初版、昭和59年19版というのだからよく読まれている。
評価の定まった名著と言えるだろう。
それをなぜ長年読まなかったのか。
たぶん題名がぼんやりしているように思うからだ。
一見はっきりしている。
「正統と異端」
「白か黒か」「甘いものがいいか辛いものか」、みたいにはっきり激突するようでありながら、「正統」とか「異端」ということばの意味がよくわからないので激突ぶりが伝わらない。
「正統と異端」と言われても外国語のけんかを聞いてるような感じがする。
まあ、このトシになったのだから外国語のけんかでも何となくわかるかもしれんと思って読む気になった。
「まえがき」でいきなりつまづく。
「秘蹟」とか「事効論」「人効論」、わけのわからん言葉が出てくる。
団子になって団体で出てくる。
「グレゴリウス改革における異端的人効論的秘蹟論が・・・」
いちいち辞書や百科事典にあたる気もしないと思ってたら、「まえがき」の日付が「1964年勤労感謝の日」と書いてあるので、骨惜しみをしている自分が責められているような気がする。
本文に入る。
「1210年、早春のある日のことである。中世ローマ法王権の歴史にかつてない権勢の一時代を画した法王イノセント三世は、ラテラノ宮の奥深い一室で見慣れぬ一人の訪問者と話し合っていた」
お!大河ドラマのはじまりみたい!
これなら読める!と喜んだのは素人の浅はかさであった。
読めませんでした。
なぜか読む気がしなかった。
これほど入れなかった本も珍しい。
最後に参考文献をあげてある。
全部外国語のものだ。
当時は、「我が国にこの種の研究は皆無に近い」ということだからしかたがない。
著者が参考にした文献ということだと思うのであるが、「これは、1961年復刻版が出され、型も小さく利用に便利である」と書いてあるところを見ると、読者にもすすめているようにも思える。
この本は「中公新書」の一冊だが、昭和30年代の「新書」は、かなり高級な読者を対象にしていたな、と思った。