若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

『アナバシス』

『アナバシス』とはどういう意味なのか、解説にも書いてない。
ネットで調べたら、ギリシャ語で「あがり」という意味だと書いてあった。
なんじゃそれは。

スパルタとの戦争に敗れて混迷を極める祖国アテナイに愛想を尽かした青年クセノポンは、ペルシアのキュロス王子のもとに身を投じる。

王子は、兄のアルタクセルクセス王から、帝国の東部、今のトルコのあたりの統治を任されていた。
クセノポンが訪れてまもなく、王子は領内の反政府分子を鎮圧すると称して、ギリシャ人傭兵部隊をかき集めて出撃する。
王子の本心は、兄から王位を奪うことにあった。

出発から千キロ以上の行軍の末、ユーフラテス川のほとりで、王子は傭兵隊の隊長たちを集めて目的を明かす。
「敵は本能寺!」じゃなかった「敵はバビロン!」

傭兵隊にとっては、重大な契約違反だ。
領内の反政府分子を撃つのと、ペルシア帝国正規軍と一戦を交えるのとでは、大変な違いだ。

話を聞いた傭兵隊長たちは、「部隊に持ち帰って、検討の上お返事します」と答える。
傭兵隊長というより、課長さんみたいだ。

で、兵隊達と、どうするか討論するんですね。
「黙って俺について来い!」てなことは言わない。
兵隊達も、「隊長に預けたこの命、来いと言われりゃ地獄の底までついていきますぜ」てなことは言わない。

徹底的に討論する。
ギリシャ人は、隊長も兵隊も、よく議論します。
紀元前四百年のくせに。

結局、キュロス王子に従うのだが、王子はペルシア軍との戦闘であっけなく殺されてしまう。
ここから、ギリシャ傭兵隊一万人の、決死の逃避行が始まる。

痛快大活劇というわけにはいきませんよ。
故郷を目指して逃げて帰る一万人の傭兵部隊の通り道になった地域は悲惨だ。

ある所で野営したとき、クセノポンは部下達に告げる。
「略奪に出かけるときは、行き先を言ってから行きなさい」
小学校の先生みたいだ。

ギリシャ人傭兵部隊も一枚岩ではない。
クセノポンがスパルタ人の隊長に、「スパルタでは、子供の頃から泥棒しろと教えるんだな」というと、「そうだよ。アテナイ人は、公金をうまくくすねるヤツが出世するんだな」と言い返す。

どちらも本当のことらしい。

西洋では、『アナバシス』は立派な古典として読み継がれてきたらしいが、あまり気持ちのいい物語ではないと思いました。