古代ギリシャ、アテナイの人クセノポンが書いた『アナバシス』を読む。
クセノポン。
いくら古代ギリシャでも、「ポン」はおかしいと思う。
が、「ポン」と書いてあるのだから「ポン」なんでしょう。
クセノポンは、紀元前四百年頃の人だ。
紀元前四百年頃のアテナイと言えば、ソクラテスの名がすぐ心に浮かぶ。
というような、えらそうなことを言ってみたい。
浮かびません。
この本の解説に、クセノポンは、ソクラテスの弟子だったと書いてあるのだ。
それだけでもすごいと思うが、なんと、あのプラトンのライバルだった。
クセノポンとプラトンは、「ソクラテス門下の大政小政」と呼ばれて、いい気になってアテナイの街を肩で風を切って歩いていたのではなかろうか。
さて、『アナバシス』とはどういう本か。
ペルシャ帝国のキュロス王子が、兄のアルタクセルクセス王に対して起こした反乱に、一万人ものギリシャ人傭兵部隊が巻き込まれる。
クセノポンは、このギリシャ兵を率いて、一年三ヶ月にわたる決死の逃避行の末、ギリシャに帰還する。
アレキサンダー大王の「遠征」のヒントとなったといわれる大冒険物語である。
ソクラテス門下の大政だったか小政だったかのクセノポンが、なぜギリシャ人傭兵部隊を率いることになったのか。
当時のギリシャの政治情勢を知らねばならない。
紀元前四百年頃のギリシャといえば、アテナイとスパルタが覇権をかけて闘ったペロポネソス戦争がすぐ心に浮かぶ。
というような偉そうな(以下同文)
スパルタに敗れたアテナイの社会は混乱を極めた。
青年クセノポンも、前途に希望を見出せず、すさんだ生活を送っていた。
その夜もパルテノン横丁の行きつけの飲み屋に首を突っ込んでいた。
赤提灯に「立ち飲み処」と書かれた気楽な店である。
「おやじ!いつものやつ!」
「ヘイ、おまちどお」
「何か、アテをくれ」
「ポンちゃん(注:クセノポンの愛称)、またかい。やめようよ」
「照れずに付き合えよ。もういっぺん言うからな。おやじ、何かアテをくれ」
「・・・あいにく、何もないんだ」
「アテがないのか。これがホントの、アテナイの飲み屋だな、ワッハッハッハ!」
「(ーー;)」
こういうしょーもない日を送っていたクセノポンに、ペルシャのキュロス王子のところが面白そうだという情報が入ったのだ。