若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

志村嘉一郎『東電帝国 その失敗の本質』

「私には夢がある」

マルチン・ルーサー・キング牧師の有名な言葉である。

「私にはクセがある」

有名でないかもしれんが、若草鹿之助の言葉である。

私の悪いクセのうちのひとつに、本屋でついふらふらと新書本を買ってしまうというのがあります。
買って帰って30分か1時間ほどで読み終え、「あ〜〜しょ〜もなかった!もう二度と新書は買わない!」と叫び、家内が「何べん同じこと言うの」と鼻で笑う。

何度繰り返されたことでしょう。

金曜日にふらっと本屋に入った私の足は、ふらふらと新書の棚に向かった。
行ってはならぬ、近寄ってはならぬと私の理性は警鐘を乱打するのであるが、宇宙支配をたくらむ暗黒勢力が私の理性をマヒさせるのであった。

ふらふらと新書の棚の前に立った私の目は、文春新書の一冊、『東電帝国:その失敗の本質』に吸いつけられたのであった。

無知無教養の大衆向けのはったりのよくきいたタイトルである。
手に取ってはならぬと私の理性は警鐘を乱打するのであるが、宇宙支配をたくらむ暗黒勢力が私の理性をマヒさせるのであった。

夢遊病者のように手を伸ばした私の目に入ったのはハデな帯であった。

「もっとも知る記者がついに書いた 超エリート集団のカネと人脈」

帯には、体育館と思しき場所で被災者に向かって土下座する東電作業服の男たちの写真が!

無知無教養の大衆向けのセンセーショナルな帯である。
買ってはならぬ、買ってはならぬと私の理性は警鐘を乱打するのであるが、以下同文。

著者を見てから決めよう。
著者は1941年生まれ、東大経済学部を卒業後朝日新聞入社。
経済部記者として、電力、石油、電機・・・などの業界と、財界や通産省建設省などを担当。
朝日新聞退社後は、電力中央研究所研究顧問を経て・・・。

これならりっぱなもんだ。

ちょと待て!
こんな経歴に何度騙されたら気が済むのかと私の理性は、以下同文。

買っちゃいました。

「まえがき」を読み始めてすぐイヤな感じがしてきました。
「新書」で何度も味わったイヤな感じ。

あわてて「あとがき」を読む。
書き出しを読んでカックンとなりました。

四月一日に執筆が決まって、原稿の締め切りが二十日だった。二十日間で四百字詰めで二百五十枚以上書かねばならない」

「二十日間で」じゃないでしょう。
資料もそろえなければならんし、構成も考えねばならん。
「執筆」は二週間くらいじゃないですか。

心配してたら案の定、使おうと思った資料が、国会図書館も「電気の資料館」も震災の被害で使えない。

「これでは、二十日まで間に合いそうもないと窮地に立った」

ハラハラして読んでたら、「執筆中、予定されていた夜の会合にいくつも出て行った」。

出たんかいな。
心配して損した。
「予定されていた夜の会合はすべて断った」ならわかりますが。

「あとがき」の最後。

「・・・季節の変わり目の中で、充実した三週間を過ごすことができた。文芸春秋ノンフィクション局長の飯窪成幸氏と文春新書副部長の石原修治氏に『七十の手習い』の機会を与えていただき、重ねてお礼を申し上げる。」

「七十の手習い」とは?
複雑微妙で分かりにくい表現である。

さて、この方の朝日新聞退職後の職場、「電力中央研究所」とは?

電力九社が設立した研究機関だそうです。
マスコミを定年退職した人がたくさんいるようです。

著者は、最初の契約期間の二年が過ぎたとき、契約更新されなかったそうです。
ほかのマスコミ出身者は更新されたのに。

いや、うらやましがってるとかうらんでるとかじゃないと思います。
電力中央研究所に長くいれば、このような本を書くこともなかったかもしれないそうです。
あぶないとこでした。

だいぶ前に、朝日新聞経済部の元記者が書いたトヨタに関する新書を読んでカックンとなったことを思い出しました。

今後二度と・・・。