リンカーン伝を読んでリンカーンはほんとにえらい人だったんだと思いました。
正規の教育は受けてないけど教養があり哲学的宗教的深みがあった。
ギリシャローマの古典やシェークスピアも好きだったけど吉本新喜劇みたいなのも好きだった。
バカ話を聞くのが好きで自分でするのも好きだった。
教養ある東部のエリートたちを困惑させるようなあほな話が好きだった。
「大統領もいい人だけどちょっとねえ・・・」
リンカーンが二期目を目指す大統領選挙の直前、いくつかの州で知事選挙と議員選挙があった。
与党共和党が勝つか野党民主党が勝つか、大統領選挙の行方を占う重大イベントだった。
開票当日電信で届く選挙速報を待って大統領はじめ閣僚たちが電信室に集まった。
新しい電信が届くと全員数字に食いついた。
数字を確かめるとリンカーンは自分の席に戻ってユーモア小説を読みだした。
当時大人気のハチャメチャお笑い小説だった。
くすくす笑いながら読んでいて電信が届くとぱっと席を立って険しい顔で確認した。
確認するとまた席に戻ってくすくす笑ってまた電信が届くと飛んで行って確認、席に戻るとゲラゲラ。
これを見ていた陸軍長官スタントンがリンカーンの秘書官を呼びつけて別室に連れて行った。
陸軍長官は顔を真っ赤にして怒ったそうです。
「この国家の一大事にあんなしょ~もないすかみたいな小説を読んでくすくす笑うとは何事じゃ!」
リンカーンは芝居見物が大好きだった。
南北戦争のさなかでもしょっちゅう芝居見物してます。
これもまじめな閣僚たちからは渋い顔をされた。
ある日リンカーンの芝居見物中に陸軍長官スタントンがやって来た。
スタントンは大統領特別ボックスに入ると熱心に観劇中のリンカーンの横にぴったりくっついて重要案件について延々と話しだした。
リンカーンは舞台から目を離さず「ふんふん」「あ、そう」とか適当に返事してた。
頭に来たスタントンは腕を伸ばしてリンカーンの上着の襟をつかむとグイと引っ張ってこっちに向かせた。
周囲の人たちが感心したことには無理やり向かされたリンカーンの顔にはいつものように穏やかな笑みが浮かんでいた。
襟をつかんで無理やり引っ張られても穏やかな笑顔のままリンカーンは横目で舞台を見続けてた。
あきれたスタントンは「グッドナイト!」と言い捨てて出て行ったそうです。