若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

「欧米から見た岩倉使節団」を読む

本を読んでいると、時々主題と関係ないエピソードに興味をひきつけられることがある。

この本は、明治四年に日本を出発した特命全権大使岩倉具視を団長とする欧米視察使節団を扱ったものである。
この使節団については、団員の久米邦武が「米欧回覧実記」としてまとめているし研究書も出ている。
この本は、それを受入国の側からの視点で見ようというもので各国の研究者が分担して執筆している。

イギリス編を読む。
アメリカで大歓迎を受けた使節団は、次の訪問国イギリスを目指した。
一行の乗った船に南貞助という男がいた。
彼は、長州藩出身の英国留学生で高杉晋作の従兄弟であった。南は滞在先のロンドンからわざわざアメリカまで一行を迎えに来たのである。

彼は、船中でアメリカの実業家ボールズ兄弟と親しくなった。
ボールズ兄弟は、アメリカン・ジョイント・ナショナル銀行のロンドン支店を開設するため渡英するところであった。

ロンドンに着くと、ボールズ兄弟はチェアリングクロス街に支店を開いた。彼らは、南に日本人客の勧誘を依頼し、ロンドン支店支配人として月給200ポンドを約束した。
当時、ロンドンには維新前に藩から派遣された留学生たちが数十人いたのである。
南は精力的に勧誘に動き留学生達の預金を獲得した。
使節団の団員たちにも預金を頼んだ。
同じ長州藩木戸孝允をはじめ、大久保利通など多数の団員が預金した。

使節団はビクトリア女王の謁見を受ける予定であったが、女王が夏休みで一月ほどロンドンに戻らないというので、その間英国各地を視察した。

一行が地方視察から戻ってみるとロンドンの日本人社会は大混乱の最中であった。
ボールズ兄弟が日本人から集めた二万ポンドの金を持って姿をくらませたのである。

すばらしい!
金とともに去りぬ。
完璧な詐欺である。

これを読むともう岩倉使節団どころではない。
アメリカン・ジョイント・ナショナル銀行だ!
岩倉具視大久保利通もどうでもよい!
ボールズ兄弟だ!

いつから狙いをつけていたのだろうか?
大金を持った田舎者を狙えというのは詐欺師の常識であろう。
軽薄な知ったかぶりの男を手下に使えというのも常識であろう。

絵に描いたような見事な詐欺である。
「鬼畜米英」はここからはじまったと思う。