9月に、エアロスミスの「アメイジング」という曲を弾く。
先週の発表会の後、尊師が、「ボーカル科の発表会でK君が歌うので、ギター、お願いしたいとのことです」と言われた。
楽譜をもらって練習を始めたところだ。
K君とは何度かいっしょに演奏している。
24、5歳の青年だ。
数年前、はじめてK君の歌を聞いた時は驚いた。
レッドツエッペリンの名曲、「ブラックドッグ」だった。
あまり歌われる曲ではない。
渋い選曲に大いに期待した。
K君が歌いだした瞬間、私も、そばにいた丑之助君やセンベー君も思わずずっこけた。
ロックと言うよりヨーデルだと思った。
アルプスの山々に雪崩を起こすようなヘビーかつハードなヨーデルだ。
ハイジがひきつけを起こして逃げ出しそうな声だ。
息を吸いながら叫んでいるとしか思えない。
新しいシャウト唱法の誕生!
その彼も、いまやヤマハが誇るロックボーカリスト、堂々たる「地獄の狂獣」に成長した。
尊師の調教のウデがしのばれる。
彼と私が尊師の自慢の生徒ではないか。
なんとなく、彼と私を組み合わせたいという尊師の意向が感じ取れるのである。
昨日の夜電話がかかった。
家内が出て、K君だという。
ははーん、尊師に、お願いします、と電話を入れておくように言われたのだな。
歌の方では、人様から「一人前の狂獣」と後ろ指をさされるようになったK君だが、人間的には、私のことを「30いくつですか?」と尋ねるような、わけの分からんところがあるのだ。
以前、彼から「おとうさん!」と呼びかけられて驚いたことがある。
その時彼のそばに彼のお父さんがいて、私に紹介するつもりだったのだ。
「父です」と言うべきところだ。
私を見ていきなり、「おとうさん!」では混乱する。
その彼が尊師のアドバイスに従って電話をかけてきたのだろう。
電話に出ると
「あ、Kです。アメイジング、ギターだいじょうぶですか?」
絶句!
しっつれーな!
だいじょうぶですかとは何たる言い草かといかに温厚な私と言えど腹が立つと同時に不安になるではないか。
だいじょうぶかな?
練習します、と答えておいた。