若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

トリプルバカ

子供が嫌いという人も少ないだろうが、私はかなりの子供好きだと思う。

父が子供好きだったし、祖父もそうだったらしい。
遺伝か。
「子供好き遺伝子」というのがあるのだろうか。

昨日の帰り、駅の近くに小さな子供をつれたお母さんがたくさんいた。
駅前の市民会館で子供向けのイベントがあったのだろう。
子供が大勢ふざけまわっているのは楽しい。

改札を入った所で、数人の若いお母さんが子供そっちのけでぺちゃくちゃしゃべっていた。
そこを通り過ぎて、右へ曲がってホームへ上がるエスカレーターに乗った。

ふと上を見て驚いた。
長いエスカレーターの真ん中あたりに3歳くらいの女の子が一人、不安そうな、今にも泣き出しそうな表情で歩いて下りようとしている。
もちろん、同じ位置で一生懸命足を動かしているだけだ。

ホームを見ても誰もいない。
私の顔を見たとたん、「あーん!ママー!」と泣き出した。

やった!と思った。
めったにないチャンスだ。
泣き出した幼女を見て顔を輝かせた私を見た人は、変質者と思うかもしれない。

私は女の子に向かって思いっきりの笑顔を作った。
ナッハー!と口を開いて、目じりをうんとこさ下げた。

相手が大人の女性ならこんなことはしない。
少し口元を緩めて苦み走った微笑を見せるだけでハートをつかむ自信はある。
しかし子供相手ではそのテはきかない。

私は猫なで声を出した。
「じっとしてて。おじちゃんが行くから待っててネ」

ナッハー!と笑って、身の毛もよだつような猫なで声を出して女の子に近寄る私を見た人は、警察に通報するかもしれない。

女の子を抱き上げた。
軽い。
こういう時楽なように子供は軽いのか、とアホなことを考える。

ホームに上がると子供が何人かいた。
母親たちがおしゃべりに夢中の間に、上がってきたのだろう。
女の子を見た男の子が、「ユミ!なにしてるねん」と言った。

男の子は、「バカ!」と言って、女の子をたたこうとした。
私はあわてて女の子を抱いた。
母親はまだ現れない。

男の子が、「ユミ!トリプルバカ!」と言ってまたたたこうとした。

やっとエスカレーターにお母さんたちが現れた。
「ユミ、なに泣いてるの。アハハハ!」と笑って、急ぎもせず上がってくるではないか。

気の弱い私は口に出せないので、心の中でそっと、「トリプルバカ」とつぶやいた。