明るい曲だがどことなくさびしい。
家内が生協でチューリップの球根を百個買った。百個!チューリップのサラダでも食べさせる気か。
ちがった。一箱百個入りで、安かったのだ。
庭のあちこちに植えまくっていた。春、我が家の広大な庭は色とりどりのチューリップでうずまり、これがうわさのオランダ屋敷などと評判になって人々が押し寄せるようなことになったら、お客様サービスの一環として風車でも作らねばならぬと思案していたのであった。
道路に面した所も小さな花壇にしてあるので、そこにも何本か植えていた。
先日、会社へ行くときに見たら、そのうちの一本のつぼみがかなりふくらんでいた。同じ場所に同時に植えても結構成長の差はあるものだ。明日には咲くだろう。
翌日会社から帰ると、家内があのチューリップはとられたという。ナイフで切り取ったようだ。たまに新聞で、花をとられたという投書を見るが、まさかわが身に起ころうとは思わなかった。
しかたがない。次のつぼみが三つ四つふくらんでいる。と思っていたら、翌日それも切り取られていた。
家内が、近所の知り合いで、道路に面した花壇で花を植えている人に電話したら、去年六割がたやられたので落ち込んで今年はやめたそうだ。
「花をとらないでください」という張り紙も結構あるらしい。
花を切り取る。不思議と言えば不思議な話だ。一人さびしく暮らしている人だろうか。
奥さんが切って帰って、ご主人に報告なんてあるだろうか。
「このチューリップ、若草さんから取ってきたの」
「やったねっ!」
ご主人が切って帰って奥さんに見せるのか。
「ほい!チューリップ!」
「んもう!だから黄色はどこにでもあるって!」
「よし、明日は四丁目まで足をのばすか。やっぱり赤がないとさびしいもんな」
三十年ほど前、父といっしょに交野の伯父の家に花見に行った。庭に、伯父の自慢の大きな桜の木があったのだ。見事に咲き誇っていた。あんまりほめたからか、伯父が持って帰れと言って聞かない。いらないと言うのに非常に大きな枝を切ってしまった。枝というより桜の木だ。
帰りの電車で、桜の木をかついだ私は注目の的であった。
三十年前、京阪電車、大阪環状線、近鉄奈良線車内で、満開の大きな桜の木をかついだ男を目撃された方、アレは伯父にもらったんです。