朝のバス。
交差点の信号で止まった。ぼーっと外を見ていたら、歩道を私学の制服を着た小学生が二人歩いている。三年生くらいのお兄ちゃんと、一年生の妹のようだ。大きなランドセルを背負って、手提げ袋を持ってよたよた歩いている。
妹はお兄ちゃんから少し遅れている。お兄ちゃんが信号に気づいた。青の間に渡ってこのバスに乗るつもりだろう、急に走り出した。
お兄ちゃんが走り出したのに気づいて妹も走り出した。お兄ちゃん!待っててやりなさい。ランドセルとバッグで妹はふらふらだ。
ころぶよ。
お兄ちゃんを追って走り出してすぐ、妹はバッターンと倒れた。私の期待した通りじゃなかった心配したとおりの展開になってしまったではないか。
水泳の飛び込みのように前に身体を投げ出して道路に倒れた。
実に古典的な倒れ方でこてんと倒れたなどと不謹慎なことを言うのは誰ですか。
転んだ瞬間、私は思わずあっと声をあげた。
乗客がいっせいに私を見た。私を見てどーする。私が見ている方向を見なさい。誰も見ないのか。
もったいない。
妹は立ち上がらず道路に腹ばいになっていた。お兄ちゃんが近づいて抱え起こしてやった。妹はお兄ちゃんにすがりついて泣いている。
やさしく抱いてなぐさめてやる余裕はないようであった。
二人でとことこと来た道を戻りだした。ひざ小僧をすりむいたのだろうか。
血が出ているのか。これから家へ帰って学校に間に合うのだろうか。色々気をもんでいたら、向こうからお母さんらしい人がやってきた。横断歩道を渡るところまで見届けるのだろう。
女の子はお母さんにすがりついて泣いていた。
これでよし。
私が、発車オーライ!と言うとバスは動き出した。