電車で。
ベビーカーを押した若いお母さんが、隣にすわった。赤ちゃんが、すやすや眠っている。堂々と寝ている。
ラッキーである。
この赤ちゃんがまた、模範的、典型的赤ちゃんである。
短い手で、「ホールドアップ!」して眠っている。万歳して眠っているといいたいところだが、どう見ても、「ホールドアップ!」だ。
おでこに、吹き出物だろうか、赤いプツプツが、散らばっているのがいい。
赤ちゃんらしさを強調するための、ハリウッド仕込みの特殊メイクアップという感じで、よろしい。
赤ちゃんが眠っている姿は、いつ見てもおごそかである。
堂々としていて、ほとんど威張ってるといっていい。
世界を肯定している感じがする。
「このままでよろしい」という肯定感が、全身からほとばしっているというか、にじみ出ているというか、すやすやと眠る赤ちゃん周辺に、充満している。
世界はこのままでよろしい、ついでにあんたもそのままでよろしい、といってもらってるような気になって、心が落ち着く。
こっちも、肯定的になる。赤ちゃんが、すやすや眠っているのを見て、「いつまで寝てるんだ!」と思う人はないだろう。
それでよろしい、と思う。
肯定感に満たされて電車を降りた。