次女夫婦が来た。
9月出産予定の次女のおなかは、それなりにぽんぽこりんである。
本人は、おなかがぺしゃんこだったときのことは忘れてしまった、ずっとぽんぽこりんだったような気がすると言っている。
産んでしまえば、おなかがぽんぽこりんだったことは忘れてしまうだろう。
三人の子供の中で、次女のおなかが一番印象が強い。
夕食後、風呂に入れるとき、次女のおなかはぽんぽこりんであった。
その、ぽんぽこりんのおなかが、朝起きてくると、ぺしゃんこになってる。
不思議であった。
皮膚が、特別柔軟だったのだろうか。
次女は、二、三歳の頃、顔を自由自在に変化させた。
百面相と言うか、福笑いと言うか、自分でほっぺたを引っ張って、口をヘンな風に開いて、目をあっちこっちに動かすと、まるでつきたてのもちのように激しく変化して、大丈夫かなと心配になるほどであった。
冬の夜、私と次女の間で執り行われる特別の儀式があった。
風呂上りにガウンを着せる。
お向かいのおばあさんが、長女の誕生祝にくれた上等のガウンだ。
輝くばかりの白さで、キルティングがしてあって、赤いリスの絵が散りばめてあって、赤いひもがついている。
これを女の子に着せたらかわいいと思うでしょう。
ところが、かわいいと言うより、ヘンでしたね。
ガウンは、日本の幼児には似合わないのではないか。
ちゃんちゃんこの方が似合う。
さて、このガウンを着せるのであるが、タダでは着せない。
その頃、次女がお気に入りの絵本に『白雪姫』があった。
魔法使いのおばあさんが、白雪姫に毒りんごを食べさせる。
「お嬢さん、きれいな赤いりんごはいかが?」
このせりふを、私は、陰険邪悪のカタマリみたいな顔と声で読む。
次女は、三人の子供の中で特に「陰険邪悪系」が好きだった。
このせりふを、ガウン着用時に応用したのだ。
「お嬢さん、きれいな赤いひもはいかが?私が結んであげましょう!」
陰険邪悪な私の声に、次女は大喜びでぽんぽこりんのおなかを突き出してくる。
紐をぎゅっと結んでやると、ニカーッと笑って舌をぺローンと出して倒れる。
白雪姫は死にました。
そして、朝、ガウンを着せるとき、次女のおなかはぺしゃんこになってる。
9月には、二十数年ぶりに、次女のおなかの「ぽんぽこりん」→「ぺしゃんこ」を見ることができる。