C.V.ウエッジウッド著『チャールズ一世の裁判』を読みました。
ウエッジウッドさんの「清教徒革命三部作」の最後の本です。
議会軍との戦いに敗れて捕虜になったチャールズ一世が裁判にかけられて首をちょんぎられるまでの話です。
いろいろ面白い話があります。
当事者にとっては面白いどころじゃないですが、読む分には面白い。
捕虜になって二年半、いつ殺されるかと怯えるチャールズ一世が48歳の誕生日を迎えるんです。
いくら捕虜でも国王ですから、ジェームス・アッシャーという大司教が国王の前に出てお祝いの言葉を捧げる。
まあ、捧げるのはいいんですが、むちゃくちゃに祝う。
「国王陛下のおかれましては、この度めでたくも48歳の誕生日をお迎えあそばされましたこと、実にめでたき限りにて、臣下一同恐悦至極に存じ上げ奉ります。国王陛下のご威光はますます盛んにして・・・」というようなどうしようもなく場違いなハッピーな言葉をふりまいて、これにはさすがノーテンキな国王も聞いてる間中ず〜っと頭を抱えてたそうです。
チャールズ一世という人はとんでもない人で、こんな人が王様になる可能性があるんだから王制はダメだ!と思えます。
チャールズ一世は戦争に負けて捕虜になったんじゃないんです。
「もうだめだ!」と思って、家来3人を連れて自分だけ議会軍に逃げ込んだんです。
自分の軍隊を見捨てて。
逃げ込まれた方もびっくりした。
びっくりしたけど、まあ、王様が逃げ込んできたんだから自分たちの言い分を聞いてくれると思った。
「王様、あなたの負けですね」
「負けました」
「では、私たちの要求を聞きますね」
「聞きません」
「???」
困ったもんです。
で、裁判ということになる。
チャールズ一世は言語障害気味で、ふつうにしゃべれなかったようです。
議会側としては、公開裁判で責め立てれば王様がしどろもどろになると思ってた。
ところが、どういうわけか裁判の間中チャールズ一世は実に堂々と反論した。
完全にいなおっちゃったようです。
弁護士もつかないのに自分で見事に反論したそうです。
不思議ですね。
でも、勝者の裁判ですから死刑は決まってた。
断頭台に引きずり出されてからも国王は立派なもんです。
前に読んだ同じ著者の『トマス・ウエントワース』でも、断頭台に引きずり出されたトマス・ウェントワースの態度は立派なもんでした。
こういうのを読むと死刑も悪くないかなと思えます。
死刑となると見違えるように立派になってしまう。
「断頭台」というのは首を乗せる材木です。
チャールズ一世は断頭台を見て、首切り役人に「ちょっと低いんじゃないか」というんです。
そう言われた首切り役人は「・・・ちょっと低かったですな」と答えるんです。
不思議な会話です。
ふつう、首を切る時、首切り役人は首を切る相手に、「悪いけど、許してね」みたいなことを言うそうです。
それに対して、「いや、気にしなくていいよ」みたいなことを答えるのが断頭台での作法だったようです。
しかし、現役の国王の首を切るということで緊張したのかそういうあいさつは抜きだったそうです。
チャールズ一世処刑の報をうけたヨーロッパの王様達が、「ご愁傷様です」と言ってくれただけで、全く応援してくれなかったのは、王妃や皇太子にとっては残念無念だったようです。