私は、肖像画を描いてると思ってますが、肖像画とは何かとなると、けっこう難しそうです。
美術予備校の先生に、「肖像画は似てなくていい」と言われた時はビックリしました。
先生は、肖像画は、モデルに喜んでもらえばいいと言うんです。
なるほどね。
一理あると思います。
顔立ちが似てればいい、という考え方もある。
いや、内面を描く、という考え方もある。
古来、その二つの間で揺れ動いてたようです。
顔じゃなくて、その人の持ってる権力とか、莫大な富とか、勇敢さとか、学識とか、慈愛の心とか、そういうのを描く。
昔は、えらい人の肖像を描くのが普通だったから、「えらい!」というのを描く。
「私の誤った肖像画が出回れば、国民を悲しませることになる」というんです。
で、誤りを許さなかった。
シワなんかが「誤り」だったようです。
いくつになっても、シワを描くことは許さなかった。
肖像画というのは、そういうもんだった。
スペインのナントカ王女が、当時ヨーロッパで名声の鳴り響いていたティツィアーノに肖像を頼んだ。
もちろん、本人がイタリアまで行ったわけじゃないし、巨匠ティツィアーノを呼び寄せたわけでもない。
彼女の肖像画を送って、それをもとに描いてもらったんです。
で、その送った肖像画というのが、30年前に描かせたものだった。
えらい人の肖像画というのはそういうもんだった。
ラクと言えばラクです。
ふつうの人の肖像画はむずかしい。
権力を描くわけにはいかんし、学識を描くわけにもいかん。
私はけっこうむずかしいことに挑戦してるようです。