私は、肖像画をたくさん描いてます。
写実的肖像画である、と自分では思ってます。
有名な画家の画集などを読んでて、うれしくなることがあります。
描きあげた肖像画が受け取りを拒否されたという記事です。
有名画家の絵ですよ。
画集で見ると、よく描けてる。
現に、名作として有名美術館におさまってる。
それでも、描かれた本人は気に入らなくて受け取りを拒否した。
いい話ですなあ。
有名画家でさえ、モデルを満足させることはむずかしい。
私が満足してもらえなくても当然であると思うと気が楽になるので、こういう話、好きです。
近代フランスを代表する画家アングルは、批評家からは、「モデルを美しく描きすぎだ」と批判されたけど、モデルからは文句を言われてる。
19世紀、超売れっ子肖像画家で、今なら一枚何千万円だったサージェントも文句言われてる。
サージェントと張り合う人気だったアンデルシュ・ゾーンなんか、具体的に「20か所描きなおせ」とクレームをつけられてる。
静物や風景は、どう描こうと文句言わないけど、人間はうるさい。
私は、肖像画を描くとき、モデルさんに、「ノークレームでお願いします」と言っておきます。
「文句があっても、黙って受け取ってください」
これなら安心です。
先日、デュフィ展を見に行きました。
「色彩の画家」ですね。
写実の人じゃない。
写実の人じゃないけど、人気画家ですから、肖像画を頼まれる。
億万長者の一家が馬に乗ってるとこを描いた大きな作品が出品されてました。
解説に、一枚描いたけど受け取りを拒否されて、次に描いたのがこの作品だと書いてありました。
この億万長者はなぜ拒否したのであろうか。
デュフィは、なぜ二枚目を描いたのであろうか。
たとえば、ピカソに肖像画を頼む。
ヘンな絵を渡されて拒否できますか?
ヘンは承知ですよね。
デューラーは、ルネッサンスの、というか、西洋美術史の巨人ですね。
好きな絵ではないです。
好きになるのが恐れ多いような絵だと思います。
当時すでに大物だった50歳のデューラーが、神聖ローマ帝国皇帝の肖像画を描いた。
そして、その絵を、お世話になったネーデルラントの統治者、マルガレータ女公に捧げるんです。
マルガレータさんは、皇帝の娘です。
で、その絵を見たマルガレータさんは、「いらない」と言って受け取ってくれなかったんです。
「こんなの、パパじゃないわ!」と思ったんでしょう。
デューラーは、「女公は、お気に召さなかったようだ」と書いてます。
正直ですね。
私なら、受け取り拒否されたことなんか日記には書きません。
デューラーと私の差は大きいと思いました。