むかしむかしあるところに、という話じゃありません。
バス停で、ゆかりちゃんに会いました。
ゆかりちゃんは近所の女の子、じゃなかった、二十数年前、「ウチの息子と小学校でいっしょのクラスの女の子」だったところの三十代女性です。
四年生になるまではよくウチに遊びに来てました。
四年生になるとぱったり来なくなった。
来なくなった理由は、「クラスでウワサになってるから」と言ってました。
バス停でよく会うんです。
彼女が仕事に行くところだったり、テニスに行くところだったり、いろいろです。
ゆかりちゃんの仕事は、よくわかりません。
ある時は「塾」、ある時は「中華料理店」、あるときは「速読教室」、最近は「春日大社」。
非常に自由なようです。
いつもは、バスに乗って数分で、学園前駅で別れてたんですが、きのうは電車も同じ方向で、三十分ほどいっしょでした。
とくに共通の話題もないので、二十数年前の昔話に花が咲くことになってしまう。
近所のキリスト教会の日曜学校に送っていった話とか、ウチに来てスーパーファミコンで遊んだこととか。
ゆかりちゃんは、スーパーファミコンで私と対戦したことはおぼえてませんでした。
私にとっては強く記憶に残る話なんですが。
「ストリートファイター2」という対戦格闘ゲームがあって、はじめのうち私は小学低学年の息子と互角に戦ってたんですが、すぐぼろ負けするようになって、息子が「面白くない」と言って相手にしてくれなくなった。
で、ゆかりちゃん相手なら勝てるだろうと思って、誘ったんです。
そしたら、ゆかりちゃんは、「私は『チュンリー』使いとしては相当なもんなんだよ」と余裕で受けて立ったんです。
「チュンリー」というのは、ゲームに登場するキャラクターで、拳法家の女の子です。
ゆかりちゃんとゲームを始めようとしたら、息子が、「ゆかりちゃん、強いで」と言いました。
強かったです。
息子より強かった。
負けても負けてもしつこく挑戦し続ける私に、ゆかりちゃんは、「おじちゃん、もういいでしょ」と言いました。
「え~、そんなことありましたかねえ」と笑ってました。
お兄ちゃんが二人いて、よく相手をさせられたので、ストリートファイターは強かったそうです。
ゆかりちゃんは、近鉄布施駅で降りて、テニスに向かいました。