『グランドナショナル敗者列伝』を読んでます。
イギリス最大の障害競馬レース「グランドナショナル」で勝てなかった騎手と馬の物語です。
失敗談の数々を面白おかしく書いたものだろうという私の期待は外れてまじめな本です。
グランドナショナルには一流の騎手、一流の馬も出場するし、「完走できれば儲けもの」という感じの出走もあるし、「出ることに意義がある」というのもあり、レースの予想では「本命」「対抗」「穴」とかのほかに「見込みなし」なんてのもあるようです。
1961年のグランドナショナルにスタン・メローという24歳の若い騎手が「見込みなし」の馬で出場した。
「見込みなし」だったんですがそこはグランドナショナル、何がおきるかわからない。
ゴール目前で20頭の集団転倒が発生、8位に入った。
その夜スタン・メロー騎手は車でぶっ飛ばしててスピード違反で捕まった。
やってきた中年の警官を見て「ひょっとしてこの警官、競馬ファンではなかろうか。見逃してもらえるかも」と考えた。
「あの~、ボク、騎手なんです。今日のグランドナショナルで走ったんですよ」
さすが国民的レースグランドナショナル、効果てきめん。
「え!グランドナショナルに出たのか!」
「そうなんです!」
「何位だった?」
「8位です」
「あのな~、飛ばすんなら馬で飛ばせよ。車で飛ばしてどうする?」
イギリスのおまわりさんおもしろいです。
1958年、ピーター・ピクフォード騎手はピースタウンに乗って出場。
よく走って、最終障害を越したところで5頭の先頭集団の5番目だった。
ユーチューブで見てても、最終障害を越えた直線が勝負どころです。
ここからビシバシ鞭が入る。
400メートルほどの直線、ゴールは目の前、鞭も入りますよ。
しかしピクフォード騎手は鞭を使わなかった。
「今日のこいつは最高の走りをしている」と思ったんです。
「よし!鞭は使わず馬にまかせよう!」
最後の追い込みで一度も鞭を使うことなく5位で終わった。
ピクフォード騎手にとって、馬が最高の走りを見せてくれた満足の行くレースだった。
レース終了後控室にいたら馬主がやってきた。
「最後の直線で君が鞭を使わなかったのは本当にうれしかった!ありがとう!」
こう言って10ポンドくれたそうです。
5位だったけど、馬も騎手も馬主もハッピーでめでたしめでたしです。