イギリスの障害競馬の騎手A.P.マッコイの自伝を読み終わりました。
20年連続最多勝騎手の武勇伝ですからハデです。
年間最多勝記録を更新中に引退というのもカッコいい。
引退してやはりさびしかったようです。
レースの興奮、気のいい騎手たちとの楽しいひと時、危険ととなり合わせのスリルさえ忘れられない。
自分が勝ったときの馬主や関係者、馬券を買った男たちのうれしそうな顔も忘れられない。
忘れたいこともある。
競馬場で待機してる救急車、落馬、骨折、激痛、レントゲン、点滴なんかは思い出したくない。
なんたって、肋骨や鎖骨が折れるくらい慣れたもんで、背骨が折れてはじめて「これはやばいかも」という男です。
地方の競馬場へ行くのに車で12時間揺られてレースは4分で終わりなどというのもあまり思い出したくない。
引退してからは調教を手伝ったりテレビの競馬番組に出たりの毎日です。
競馬番組のレポーターとして競馬場の馬場に立った時、寒さに震えあがったそうです。
騎手として薄いレース服を着て馬にまたがって寒いと感じたことはなかった。
「競馬場ってこんなに寒かったのか!」
新鮮な感覚だった。
勲章をもらったと思ったらすぐまた「ナイト」の称号をもらうことになった。
「勲章」と「ナイト」はちょっとややこしかった。
物心ついて以来「アイルランド共和国軍の」爆弾闘争の中で育ってきた。
イギリス女王から勲章をもらうのは問題ないのかと質問されて「まったく問題ないとは言えない」と答えてます。
「勲章」はわりとすんなりもらったけど「ナイト」の時はかなり悩んでます。
「ナイト」と言うと女王に仕えるという感じになるからですかね。
さて、A.P.マッコイ最大の悩みは愛する競馬の将来です。
騎手志望者が減ってるんです。
マッコイが若いころ障害騎手は150人ほどだったのに今は90人ほどだそうです。
競争が減った分レベルは落ちていると言ってます。
危険なわりに収入が少ない。
イギリス障害騎手の平均年収は500万円ほどだそうです。トップ騎手以外は食べていくのがやっとこさらしい。
イギリスのサッカー2部の選手で平均年収5000万と言うんですから、収入の面では魅力ある職業とは言えない。
マッコイは、障害騎手でなければ海外で稼げるからまだいいと言ってます。日本の競馬は金銭的にも労働条件的にも海外の騎手にとっておいしい市場みたいです。
せっかくハデな陽気な話を読んできたのに最後に世知辛い話になってしまって残念です。