スティーブン・ピンカーが書いたこの本を、ヘレナ・クローニンという人は、「これまで人間の心について書かれた最高の本だ」と激賞している。
私も、これまで人間の心について書かれた本をたくさん読んできた。
しかし、それらと比べて、この本が最高であるとまでは言い切れない。
なぜなら、これまで読んだ本のことを忘れてしまっているからだ。
比べようがない。
自慢するわけではないが、私は結構本を読む。
これまた自慢するわけではないが、読んだらすぐ忘れる。
昔、私の本棚を見て母が言った。
「どうしてこんなに本を買うの?どうせ前に読んだ本、忘れてるのやから、古い本を読み直しなさい」
私の母は賢い。
十数年前、私の本棚を見て、小学生の次女が言った。
「パパ、たくさん本読んだな〜!でも、頭の中に残ってるのはこれくらいやろ!」
娘が指したのは、「世界のジョーク」という本だった。
私の娘も賢い。
「心の仕組み」(上)を読み終わったところで、何が書いてあったか、ほとんど忘れている。
しかし、例によって、しょーもない事は覚えている。
新聞記者がルイ・アームストロングに質問した。
「ジャズって何ですか?」
「そんなことを人に聞くようでは、答えは永久にわからないだろう」
意地悪な答え方だ。
この新聞記者が嫌いだったのだろう。
もうひとつ。
サディストとマゾヒストの関係について、私は昔どこかで読んだ定義に感心していた。
「サディストとは、マゾヒストに親切にしてあげる人のことである」
スティーブン・ピンカーは、別の見方を紹介している。
マゾヒスト「たたいて!」
サディスト「いやだ!」
どっちが正しいのか?
考えてみた。
サディストにもいろいろあるのではないか。
軽度のサディストから重度のサディストまで。
初心者から上級者までと言っても良い。
マゾヒストをムチでしばいて、マゾヒストが喜んでいても快感を覚えるのはサディストの初心者である。
サド検三級である。
ムチを振り上げたまましばかずに、マゾヒストが「しばいて−!」と泣きわめくのを見て快感を覚えるのが上級者である。
サド検一級。
なんでも理屈っぽく考えてしまうのが私の悪いクセだ。
サディストさんに聞いたほうが早いかもしれない。