若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

いびき

今朝の電車。

すごいいびきだった。
70くらいの太った男性が、爆音を立てて寝ていた。
「携帯電話のご使用は他のお客様の迷惑になりますから」どころではない。

三十年ほど前、私は時々文楽を観た。
ある日、上演中に、すごいいびきが聞こえてきた。

昭和の名人と言われた豊竹山城少掾の逸話を思い出した。
彼は、自分の義太夫を真剣に鑑賞してほしいとは思わなかったようで、語っている間に客が酒を飲んだり弁当を食べたりしているのを見て、「ああ、楽しんでいただいているな」と喜んだそうだ。
しかし、このいびきを聞いて、「ああ、気持ちよさそうに寝ておられるな」と喜んだりはしなかったであろうと思った。

同じ頃、得意先の会長に誘われて、会長が信仰している某宗教の本拠地に行ったことがある。
私は、この老会長が好きだった。

会長の話では、まじめに信心している時は、仕事やその他のことが順調に行く。
お参りをさぼって旅行に行くと、交通事故にあう。

会長が、この宗教を心から信仰するのは当然だと思えた。

「見物にだけでもおいで」と、あまり熱心に誘われるので、施設を見物するつもりで行ったのだ。

だまされた。
見物だけではすまなかった。
二時間も「講話」を聞かされた。
だまされた人がたくさん来ていた。

「講話」の広い部屋には、長椅子がずらりと並んでいた。
背もたれもなく、前に机もないのが変な気がした。

その理由はすぐわかった。
「講話」を聞いていると、眠くなるのだ。
居眠り防止のため、背もたれもなく机もないのだ。

私は、この宗教の人間を見る目の確かさに感心した。

一時間ほどした時、私の前の男性がゆらりとしたかと思うと、ドタッと床に倒れた。
有難い話を聞いているときに居眠りしたりするから天罰が下ったのだ。

私は、この宗教の恐ろしさに震え上がったが、入信する気にはならなかった。