若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

「ぼくのマーチン君」

新聞の書籍広告。

ポピュラー音楽が好きで、ギターが好きな人なら、この題名を見ればピンと来る。
「マーチン」というのは、それほど有名なアコースティックギターのメーカーである。
「いい音」がするらしい。
私にはわからない。

だいたい、「いい音」のギターなんてあるのか。
私が愛用している、ギブソンレスポールというのも、エレキギターでは有名なギターである。
しかし、私が弾くのを聞けば、誰もが、「いい音だ!」と思うより「ヘタだ!」と思うであろう。

ブルースの世界で有名なB.B.キングというギタリストがいる。
長年愛用したギターに手を加えたことがある。
そのことでギターの音が変わったかという質問に答えて

「変わらない。私が弾けばどんなギターも私の音だ」
かっこいい!

私は、一度だけマーチンを弾いたことがある。
よく行く百貨店の楽器売り場で、高級ギターを並べたことがあった。
特にギターファンが集まる店ではないから、普段は二、三万円のギターが置いてある。
ところが、そのときは数十万円のギターが並んでいた。
顔なじみの若い店員に聞くと、「デモンストレーションのため」ということであった。

マーチンやヤマハの数十万円のギターを見ていて、ふと見上げると、手の届かないような高いところに、一台隔離して展示してあるではないか。

マーチンだ。
値札を見て驚いた。
「三百万円」!

メラメラムラムラと好奇心が燃え上がった。
三百万円!
おのれ!どんな音じゃ!

顔なじみの店員を呼んだ。
若い気のいい子で、ギターもうまい。
ニコニコとやって来た。

頭上高く燦然と輝く三百万円のマーチンを指して
「あれ、見せて」
と言ったとたん、彼はロコツにいやな顔をして黙り込んでしまった。

彼は私のウデを知っているのだ。
「あんたがマーチン!?しかも三百万!?」

トシをとると言うのは有難いもので、その程度の反応は屁の河童である。
「あれ、弾いてみたいんやけど」

お客様は神様です。
彼はしぶしぶ三百万円のマーチンを下ろして私に渡した。

私は、三百万円のマーチンを鳴らしてみた。
弾いたのではない。
ボロロ〜ンと鳴らしたのだ。

ブルースギターの巨人B.B.キングと同じことを思った。
「私が弾けばどんなギターも私の音だ」