若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

モダンダンス

モダンダンスの江口乙矢さんがなくなった。
92歳だそうだ。

高校のとき、学校から江口乙矢さんの公演を見に行った。
なぜか?
ウチの高校の化学の先生が江口さんに曲を提供していたのだ。

「曲」といっても、「モダンダンス用の曲」だから、ヘンな曲だった。
ヘンな曲と言うより、ヘンな音だった。

ウチの学校の生徒は、私を含めてほとんどモダンダンスに興味がなかったと思う。
舞台で、ヘンな音に合わせてヘンな動きをしているのを、ボーゼンと眺めていた。
舞台の人たちは物凄く真剣なのに、私たちはくすくす笑ったりして、何だか悪いなあ、という気がした。

「前衛芸術」と言うのは、本人達は真剣で周囲の人をしらけさせるところがある。

ロストロポービッチのチェロを聞きに行った事がある。
一曲目はブラームスのチェロ協奏曲だったか、拍手喝采であった。

二曲目は、ショスタコビッチだったと思うが、とにかくヘンな曲だった。
前衛的だった。
チェロもオーケストラも熱演であったが、フェスティバルホールは気まずい雰囲気が充満した。
なんじゃこれは?わけわからんがな、という空気である。

指揮者は髪の毛を振り乱し、ロストロポービッチは振り乱す髪の毛がないので、ぴかぴかの頭を激しく振って指揮者と張り合っていた。

しかし、どんなに髪の毛を振り乱そうと、ぴかぴか頭を振ろうと、客は許しはしなかった。
なんじゃこれは?
頭振ってごまかすな!

曲が終わったようだ。
しかし、ふつうの終わり方ではないので、終わったのかどうかが分からん。
指揮者とロストロポービッチが頭を振るのに疲れて、ちょっと一服してるだけかもしれんではないか。

やっと終わったか、と思ってほっとしているものの、客は半信半疑だ。
ほっとさせておいて、またはじめるんじゃないか?

半信半疑、疑心暗鬼の客が舞台を見つめていた。
すると、ロストロポービッチが立ち上がった。
「日本の皆さ〜ん、終わりま〜した、安心してくださ〜い」と言っているようだ。

ぱらぱらと拍手が起きた。
「つまらん!」という客の感想は、言葉の分からないロストロポービッチにもはっきりと伝わったと思う。
頭を振ったくらいでは客は納得しないと言うことも分かったと思う。

ステージを降りる時、彼は頭を振っていた。
さっきと違って、力のない振り方だった。