新聞の広告。
「世界の人々に感銘を与え続ける名画の競演!」
複製画の広告である。
「競演!」がちょっとひっかかるが、1枚12600円は安い。
凹凸もついて本物とそっくりだと書いてある。
「モナリザ」「ミレーの晩鐘」「裸のマハ」などの名作がそろっている。
しかし、本物そっくりの「モナリザ」を部屋にかけたい人はいるのだろうか。
私はいりません。
「裸のマハ」もいらんし、ルノワールの「眠れる裸婦」もいらん。
部屋に飾るなら有名でない方がいいと思う。
最近の複製画は非常に精巧にできていて、以前買った印象派の画家シスレーの風景画は、私には本物としか思えなかった。
それほど有名でない人のあまり有名でない絵だから、たぶん誰が見ても本物の油絵だと思うだろう。
このシスレーという人は当時から、モネやルノワールなどと比べると有名ではなかった。
人柄が温厚で控えめだったし、画風も派手さがないので印象派の中では目立たない存在だった。
しかし、その人柄で、個性ある印象派の画家達のまとめ役になっていたのである。
1878年の印象派展覧会のオープニングパーティで、画家やパトロン達がワインを飲んで談笑しているところに、遅れてシスレーがやって来た。
パトロン達が見咎めて、「キミ、ここは招待状がなければ入ってはダメだよ」と言った。
これにはさすが温厚なシスレーもむっとして
「あなた達はこのシスレーをご存じないのですか」
「え!あなたがシスレーさん?どうもしすれーしました」
「えーかげんにしなさい!」
「ほんとにねッ!」
このしすれー発言は誰がしたのかというのが印象派をめぐる謎の一つになっている。
これを言ったのは、金融業者のムタンポ・カネカシー氏か、製糸業者のクルクル・イトマキー氏のどちらかだとされている。
家内が子供の頃、家にルノワールの裸婦の複製画が飾ってあったそうだ。
ある日、田舎から親戚のおばあさんがやって来た。
その時おばあさんがこの「裸婦像」について漏らした感想が強く印象に残っていると言う。
ルノワールの豊満な裸婦像にじっと見入っていたおばあさんは、しみじみとこう言ったそうだ。
「おっきなチチでんな〜」