若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

バンドマン

「バンドマン」という言葉をはじめて聞いたのは小学校6年生の時だ。

同じ組のS君が、突然
山下敬二郎!ええな〜!」と言ったかと思うと、足をガバッと広げてのけぞって
「オー!プリーズ!ダイアナ〜〜!」と歌いだした。

これはいったいなんだ?
私は、「山下敬二郎」も「ダイアナ」も知らなかった。
「ロカビリー」という言葉は知っていた。

どうしてそんなことを知っているのかと聞いたら、彼のお兄さんが「バンドマン」だと言った。

彼のお兄さんの事を聞いたのは、5年生の時だ。
S君が突然
「オレ、おじさんになってん!」とうれしそうに言った。
あまりにもうれしそうだったので、私はうらやましくなった。

どうしたら「おじさん」になれるのか?
家に帰って母に聞いた。
母は笑って、S君の東京にいるお兄さんに赤ちゃんができたのだと言った。
「おじさん」になるには、兄弟に子供ができなければならないと聞いて、妹しかいない私はがっくりした。
「おじさん」になれる日がいつ来るのか想像も出来なかった。

ある日、S君が、またも突然に言った。

「おれ、『一枚アバラ』かもしれん」

何だそれは?

普通、「あばら骨」は左右六本ずつだが、その六本がつながって一枚の板のようになっているのが、「一枚アバラ」だそうだ。
力道山が「一枚アバラ」だと言った。
なるほど!それでわかった。
力道山の強さの秘密は「一枚アバラ」だったのだ!

S君は、一枚アバラかどうか調べてもらうと言っていた。
しばらくして彼は、一枚アバラではなかったと言った。
良心的な男だと思った。

彼にはもう一人兄さんがいた。
中学生だったと思う。
彼の家で遊んでいて、夕方彼が私に、「電気つけて」と言ったことがある。
側にいた兄さんが、「和雄!自分でつけろ!」と怒鳴った。
「兄さん」が欲しいと思っていた私であったが、「兄さんて恐いなー」と思った。

うちの息子も姉二人なので、幼稚園の頃、「お兄ちゃん」に憧れていた。
「お兄ちゃん」のいるA君に、「いいなー」と言ったら
「お兄ちゃんなんか、ええことないで。すぐたたくし。お姉ちゃんの方がええわ」
「・・・お姉ちゃんなんか、ええことないで。すぐこそばすし」

S君は、バンドマンになって東京で活動しているらしい。