鹿せんべい投げの特訓ではない。
ヤマハで歌の特訓だ。毎年、「鹿せんべい飛ばし大会」の直前は、ギターのレッスンではなく、歌を歌う。
「むかしむかしのロックンロール」と「鹿せんべいツイスト」を歌った。
毎年のことながら、私が声を出して歌うのは、「直前特訓」だけだ。歌うのは一年ぶりだが、生まれつきの美声と節回しの良さは健在だった。
いつもの時間に行くと、尊師がおられた。
私の前の時間にエレキギターを習っている中学生が休みだったのだ。
尊師は、この中学生には力を入れておられる。
半年ほど前から習い始めた男の子だが、いつも私の時間まで食い込んで教えておられる。
尊師の気持ちはよくわかる。
教え甲斐があるのだ。
つい熱が入るのだ。
何しろ、このところ、Y森さんや私のような教え甲斐のない生徒ばかりだったからなー。今はやめてしまったが、看護婦のTさん、退職して悠々自適のSさんなど、この数年の生徒の平均年齢は60歳を少し切るくらいだった。
尊師は、ヤマハ西大寺教室の要介護ギタリストを一手に引き受けておられたのである。
そこへ久々の中学生だ。尊師が張り切られるのも無理はない。
5分教えれば5分、10分教えれば10分進む。
Y森さんや私はそうは行かない。私たちの時間は、私たちの修行と言うより、尊師にとって修行の場と言える。
さて昨日。
ギターがマイクに変わっても、教え甲斐のなさには変わりがないのがつらいところだ。
私が歌っている間、尊師はニコニコ笑っておられる。
一曲二回ずつ歌った。
「おなかから声を出しなさい」とは言われない。
「おなかから声が出たらねー」と言われる。
私は、「そうですねー」と答える。
例年通り、こうして「直前特訓」は終わった。