海亀の産卵の様子をテレビでよく見る。
月光を浴びて、海から続々と上がってくる姿は、たしかに絵になる。
世界で何箇所か有名な産卵場所があるようだ。
神秘的である。
産卵のため砂浜を這っている海亀の姿を見ていると、ウチの息子の二十年近く前の神秘的な姿を思いだす。
息子が二歳くらいだった。
長女と次女は自分たちの部屋で二人で寝た。
私たち夫婦と息子が、いわゆる川の字で寝た。
息子は私の布団だ。なぜか。私が子供と寝たかったからだ。
娘たちは私と寝ようとはしなかった。
これは今考えても納得できない。
私の父は、仕事から帰ると馬になったり相撲をとったり、私と妹をよく遊んでくれた。だから、私も「子供と遊ぶ人」になった。
帰りが早かったので、夕食前に遊び、夕食後に遊び、風呂で遊んだ。
娘たちは非常に楽しそうであった。
ところが、私の役目はそこまでなのであった。
私がいっしょに寝て本を読んでやると言っても絶対に拒否された。
「パパきらい!あっち行け!」と言って、髪の毛をひっぱたり、たたいたりけったりした。
ついさっきまで、風呂であれほど楽しくお湯の掛け合いなどをして遊んでいたのに、なぜ突如かくも激しく拒絶されるのか。
息子が赤ん坊のときの風呂でも非常に微妙な気持ちを味合わされた。
お湯につかって私の腕の中で機嫌よくしている。
時間を見計らって、家内がタオルを持って受け取りに来る。
その家内の足音が聞こえた瞬間、息子の顔が百万ワットに輝くのだ。
毎晩のことであった。そのたびに私は自分がぼろきれになったような気がしたものだ。
で、海亀じゃなかった息子の神秘だ。
草木も眠る丑三つ時、私の布団で寝ていた息子の首が、にゅーっと伸びたりしませんよ。
息子がもぞもぞと動き始めるのだ。
四つんばいになると、目はつぶったまま、私の布団から這い出す。
布団を抜け出した息子は、畳の上で方向転換すると、家内の布団に向かって這って行く。
家内の布団まで来ると、また方向転換して、お尻からもぞもぞと後ろ向きに家内の布団に入って行く。
これが、毎晩のように繰り返される我が家の神秘的儀式であった。
海亀の生態も謎に包まれているか知れんが、人間の子供も謎だ。