家内が、「バス停で、例のおばさんに声をかけられた」と言った。
バス停に、ときどき、「スピリチュアルおばさん」がいるんです。
数年前から、布教というか、修業というか、なんか、そんな風なことをしてる70代と思える女性です。
はじめは、ビルの前に立って、大きな声で般若心経を唱えていた。
そのうち、なにか訴えるようになった。
よくわからんが、とにかく、「感謝しましょう!」と訴えていた。
それから、「あ〜ははは」と声を上げて笑いながら、うろうろ歩くようになった。
ついに狂ったか!という感じではありませんよ。
「皆さん、腹の底から愉快に笑って暮らしましょう!」という主張が感じられた。
まあ、スピリチュアルな人なんでしょう。
その人が、バスを待っている家内に近づいてきて、一冊の本を渡してニコヤカに言った。
「どこでもいいから開いてください。そのページに、今あなたが一番必要とすることが書いてあります。どうぞ声を出して読んで下さい」
この女性が知らなかったのは当然だけど、実は、家内は「朗読妻」なのだ。
「歌人妻」でもあるが、「朗読妻」のほうが長い。
朗読グループに所属して、何度もステージに立っているし、施設に招かれたりもしている。
バス停でボーっと立ってる時、突然本を渡されて、声を出して読んでくれといわれて、家内は、思わず「朗読モード」に入ってしまったそうだ。
恐ろしいもんですね。
開いたページを、朗々と読み上げてしまった。
「ありがとう!おとうさん!
ありがとう!おかあさん!
山よりも高く、海よりも深い愛にはぐくまれて、今の私があるのです・・・」
奈良交通バス近鉄学園前駅南口ターミナルに、家内の声が響き渡った。
家内の声というのが、またよく通る声なんです。
驚いたのは、そのおばさんですよ。
まさか突然朗読が始まるとは予期していなかった。
家内の「朗読」にたじたじとなって、薄笑いを浮かべながら静聴していたおばさんは、家内が読み終わると、「どーもどーも」と言って、こそこそと向こうへ行ってしまったそうです。
この勝負、家内の勝ちといっていいんじゃないでしょうか。