きのう、自転車で走っているお坊さんを見かけた。
若いお坊さんで、髪の毛も伸ばしているから、衣を着ていなかったら、「おにいちゃん」だ。
このお兄ちゃん的お坊さんは、缶コーヒーを飲みながら自転車に乗っていた。
単なるおにいちゃんならどうということはないのだが、衣をひるがえして缶コーヒーとなると気になる。
空き缶をどうするのか。
たもとに入れるのか。
走りながら、「南無阿弥陀仏!」と勢いよく捨てるのか。
息子が小さい頃はよく自転車に乗せた。
近くに貨物線が走っていて、貨車が走るのを見るのが特に好きだった。
自転車で走っていると、息子は「ぴーみゃーわー」とわけのわからない声を出して指で線路の方向を指す。
貨物線の方へ行って!と言っているのだ。
どこを走っていても、線路の方向を指差すので、伝書鳩みたいな子だと感心した。
貨物線の下の短いトンネルを通り抜けるとき、子供のころを思い出した。
「わーっ!」と声を上げて、響くのを楽しんだものだ。
息子を乗せて自転車で通り抜けるとき、「わーっ!」と叫んだら、響いたので息子は喜んだ。
次から、トンネルではいつも親子で「わーっ!」と叫んで楽しんだ。
ある日、私は一人で自転車に乗っていて、トンネルを通り抜けるとき、「わーっ!」と叫んでしまった。
あわてて周囲を見回したが誰もいなかったのでほっとした。
この貨物線は、一時間に一本くらいしか走らない。
家内が息子を自転車に乗せていたとき、貨物線の近くで息子が「ぴーみゃーわー」と言って聞かない。
どうしても貨車を見ると言うのだ。
しかたなく、民家の前に自転車を止めて列車が来るのを待っていた。
なかなか来ない。
その家のおばさんが顔を出して、家内に「何してはるんですか?」と聞いた。
貨物列車を待っていると答えると、「はよ来たらいいのにねー」と言って引っ込んだ。
待てど暮らせど列車は来ない。
帰ろうとすると息子が「ぴーみゃーわー」と叫ぶ。
待ちくたびれた頃、遠くで列車の音が聞こえてきた。
そして目の前を轟音を立てて貨物列車が走っていった。
「わーい!汽車だ汽車だ!」
家内が飛び上がって喜んだ。
ガラッと勢いよく戸があいて、おばさんが飛び出してきた。
「わーい!汽車や汽車や!ぼく!よかったねー!」
家内とおばさんは手を取り合って喜んだそうだ。