野球に特別の関心はなくなってしまったが、子供の頃は父にせがんで甲子園によく連れて行ってもらった。
小学三年生のとき野球を覚えた私は、クラス一の強打者T君が巨人ファンだったので巨人ファンになった。
古い記憶の中に、甲子園の巨人軍ベンチでひときわ背の高い、後のプロレスラー馬場選手の姿がある。
当時は「ダブルヘッダー」といって、一日二試合したことがある。
巨人阪神戦の第一試合で活躍した巨人の坂崎選手が、第二試合の始まる前に賞品に子豚を二匹もらった。
豚が逃げてグランドを走り回った。
ショート吉田の大ジャンプも忘れられない。
両足を180度開いたかっこうで、二、三メートルジャンプしてライナーをキャッチしたと思うのだが、そんなジャンプあるかな。
同級生のA君のお父さんにも、甲子園や大阪球場に連れて行ってもらった。
甲子園でA君と並んで見ていると、横のおじいさんが私たちにアイスクリームを買ってくれた。
かわいい男の子だったんでしょうな。
A君のお父さんは小学校のすぐそばの会社の社長だった。
私たちが放課後学校で野球をしていると時々見にきた。
見ているだけならいいのだが、すぐコーチをはじめるので迷惑であった。
私は、「おっちゃんののコーチは信用できない」と思った。
「バッティング」と言わずに「バッチング」と言ったからだ。
「バッチングはなー、バットでボールをすくいあげんとあかん」
当時は「ドジャーズ流ダウンスイング」ということが言われだしていた。
おっちゃんの理論は正反対だと思った。
しかし、おっちゃんが、すくいあげないと遠くに飛ばないというのももっともだと思った。
「ドジャース流ダウンスイング」か「おっちゃん流すくいあげ」か悩んだ。
会社の人が、「社長ー!」と呼びに来るとほっとしたものだ。
うちの近所のKさんという家のおじさんは、私たちが野球するのによくついてきた。
おじさんはかなりの年配で、子供がなかった。
夏はいつも大きなやかんに水を入れて持ってきて、私たちに飲ませてくれた。
原っぱで私たちの野球を黙ってニコニコしながら見ていた。
私は、このおじさんが来るのがあまりが好きではなかった。
夢中になって野球をしていてふとおじさんに気づく。
目を細めてニコニコしているおじさんを見るとなんだかさびしい気持ちになったからだ。