人前で演奏することを「ライブ」と言うんでしょうな。
「発表会」も「人前」だ。
どうちがうのか。
ライブに来るのは聴衆で、発表会に来るのは見学者か見物人というところか。
我々のレベルではそのあたりが判然としない。
素人芸の基本は、カネを払って出演させていただく、カネを払って聞きに来ていただくというものだろう。
カネを払って出演させてもらうより、聞きにきてもらうのが難しい。
ある会社の社長は社交ダンスが趣味で、発表会の切符を仕入先に買わせるので評判が悪い。
動員された人がぼやいていた。
「冬の公民館で震えながら中高年の社交ダンスをじっと見学するのは拷問です」
「ボランティア」というあくどいことを考える人もいる。
タダで聞かせられるのだからこんなうまい話はない。
何年か前、母が入居している施設で、ボランティアのチェロ演奏があるというので聞きに行った。
私と同じ年恰好の男性が出てきたのでいやな予感がした。
ヤマハの発表会で、私と同じ年恰好の男性が出てきたら「お楽しみタイム」だ。
どんなヘンな声や音を出すかわからない。
私のカンは当たった。
その男性は、たぶん一ヶ月ほど前にチェロを買ったものの、家で鳴らすと奥さんに叱られるので音を出せる場所を探していたのだ。
要介護老人施設ならだいじょうぶと思ったのだろう。
私のカンが当たらないこともある。
ボランティアの話ではなくて、娘のピアノの発表会でのことだ。
音大を受験するような人たちが習っていた。
生徒の父親で、ピアノとオーボエを趣味にしている人がいて、その人たちも発表すると言うのだ。
私と同じ年恰好の男性が、オーボエを持って現れたとき期待に胸が高鳴った。
さぞかしへんてこな音が出るだろうと思ったのだが、実に見事な演奏であった。
ある市のオーケストラで長年演奏しているとのことであった。
ピアノのお父さんが登場したとき、今度こそはと待ち構えていた。
何しろこの人は「独学」ということだ。
独学でベートーベンのソナタを弾くというのだからかなりの大物だ。
大物どころではなかった。
堂々たる演奏であった。
超大物だ。
小学校一年のとき先生について習っただけなのだが、ピアノが好きで、中学に入って「月光」の楽譜を買って三年がかりで弾けるようになったそうだ。
おもしろくない話だ。