若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

小柄な老婦人

奈良に引っ越して十数年、朝はずっと同じバスで同じ電車だ。
これは珍しいことである。なぜ珍しいと言えるか。私といっしょに乗る人の顔ぶれがどんどん変わるからだ。
いつもの人がいるときは、いつもの人がいるな、とは思わない。空気みたいなものなのだのだろう。いつもいっしょの人が見えなくなってしばらくして、あれ?あの人見ないなと思う。

電車の駅で毎朝私の右に並ぶ男性がいた。私と同年輩で、年中マスクをしている。
この人は、私より早く来てホームに立っている。立つ位置もきまっているのだが、どういうわけか、時々一つ向こうのドアの位置の所に立っていることがある。そして私がいつもの場所に立つと、はっと気づいてこちらにやってくる。非常にきっちりした人のようでもあるし、間違えるのだからぼんやりした人のようにも思える。
かなり長くいっしょだったが、だいぶ前から見ないことに最近気づいた。
さびしいといえばさびしい。

バス停では、私のほかに一人か二人だ。
一年ほど前から、70半ばと思える非常に小柄な老婦人といっしょになる。
人には弱点というものがある。私は赤ちゃんに弱い。小柄な老婦人にも弱い。しかも朝の7時だ。気になるではないか。

病院通いだろうか。いつも荷物の入った紙袋をさげているから、入院中のご主人の付き添いという可能性が高い。以前、60半ばくらいの女性で同じバスに乗る人が、大学院に通っていると言ったことがあるが、この人は大学院ではなさそうだ。

非常に気になるので、思い切って声をかけてみた。
「毎朝早くからお出かけですね」
よくぞ聞いてくださいましたと言わんばかりに話し出した。娘さんが共働きなので手伝いに行っているそうだ。子供が小さいのかと思ったら、中学生だと言う。
「孫のおもりはせんでいいんですけどね、家の仕事って色々ありますでしょ。・・・女中です・・・」
少しなまりのある小柄な老婦人。赤ちゃんに匹敵する私の弱点と言える。

今朝、私の顔を見ると話しかけてこられた。
「昨日は風と雨がひどかったですね〜。8時半ごろ、ものすごかったですよ」
「8時半!遅かったんですねー」
「いえ、早い方です。いつも10時半くらいで。子供が塾に行ったりしますし、親がどっちも遅いもんで」
思わず、おんぶしてバスに乗せてあげたくなったが、がまんした。