甥のK太郎に男の子ができた。
おめでとう。
K太郎は、私の父と母にとって初孫であって、私にとって「初甥」であった。
子供を風呂に入れる楽しさを教えてくれたのはK太郎である。
なぜ楽しいのか。
つるつるしてるからか。
私は、三人の子供と風呂で遊びまくった。
バスクリンを入れたことがある。
何度目か、次女が「入れないで」と言った。
「わたし、バスクリンきらい」
「どうして」
「お湯がまずくなる」
「?・・・お湯飲んだらダメ!」
息子を風呂に入れ始めてすぐ、女の子とはちがうなと思った。
長女と次女はお湯にぷかぷか浮かんでいる感じだったが、息子は両手をぐるぐる回して湯を跳ね飛ばし、足で私の顔をけりまくった。
娘たちは、「お母さんと入るより、パパと入るほうが好き」と言った。
「どうして」
「パパはなにしても怒らないから」
息子がヨチヨチ歩きのころ、実に不思議な現象があった。
私と風呂で機嫌よく遊んでいる。
家内がバスタオルを持って受け取りに来る。
家内が、ドアをカタンといわせた瞬間、息子は100万ワットの笑顔を浮かべてそっちを見るのである。
毎晩である。
どんなに楽しそうに私と遊んでいても、「カタン」と音がした瞬間、100万ワットなのである。
納得がいかなかった。
父には姉が四人いた。
四人とも、「明治生まれの近代女性」という感じだった。
一人は、昭和のはじめにアメリカに留学した「幼児教育のオーソリティ」であった。
80近くで倒れるまで、大学で教えていた。
子供が小さい時、この伯母が我が家にやってくると、伯母のコメントが極めて重要なものに思えた。
何しろ、幼児教育一筋50年である。
長女に比べて、なんとなく頼りなげに思えた次女を見て、伯母が「この子はしっかりしてるね」と言ったとたん、私の目に次女がしっかりして見えた。
何しろ、幼児教育一筋50年である。
生まれて間もない長女が、ベビーベッドで寝ているのを見ながら、父が伯母に向かってうれしそうに言った。
「これから毎日枕元で、『源氏物語』を読んでやろうと思うんやけど」
伯母は一瞬、むっとした表情になった。
「ダメやね!」
「・・・あかんか・・・」
父が、「いずれの御時にか、女御更衣あまたさぶらひ給ひけるなかに」と読む姿を見たかったようにも思う。